テニス | ナノ

 愛されたい幸村

精市の最近の束縛は酷い。少し男子と話しただけで授業中に呼び出され理不尽な説教が始まったり夜には必ず自分から電話をかけろ、だったり。しかも精市が寝るまで寝かせて貰えず連日欠伸が耐えない。今日もデートのはずが待ち合わせに着いていきなりスカートが短過ぎる、と呟くなり精市は不機嫌になってそのまま口も聞いてもらえなくなった。

『精市、』
「…。」

絵画展にいる事もあり話しにくい状況ではあるが普通返事ぐらいはするだろう。彼の瞳は大好きなルノワールの絵しか映ってない。もはや私がいる意味あるのか。もしかして私はもう嫌われてて、別れを切り出される?

『ねぇ、精市。』
「五月蠅いな、絵を見てるのが分からない訳?」
『じゃあ私いらないじゃん、最初から1人で来れば!』

まさに売り言葉に買い言葉。美術館を泣きながら走る私を人々は好奇な目で見る。まるで私の方が美術品みたい。薄いガラスのドアを抜けて街に溶ける。後ろを振り向いても知らない人ばかりがいる。追って来て欲しかったなんて私も馬鹿だ、なら何でもっと人がいないところに逃げてわざとらしい恋愛劇をやらない。

…私は弱いから精市から拒絶されるのが怖かった。ただそれだけ。駅に向かって再び歩き出した。ナチュラルメイクとはいえ落ちたマスカラが黒い涙を作る。泣くな、泣くな私。泣いたってどうにもならないだろ。


「何で勝手に帰るの。」

目の前にはまた不機嫌な顔をした精市。

「何で泣くの何でもっと俺を見ないの何で何で何で。」


俺を求めて愛してくれないの。

精市も泣きそうな顔をした。簡素な住宅街の道路の真ん中で喧嘩をする迷惑な私たち。愛してくれないなんて嘘、私は精市が好きだから言われた事は次からちゃんとやってる。それに不満なら私に何を求めているというの。

「俺には南しかいないんだよ、俺から離れないで。」

震える声で肩に顔を埋められシャツを掴まれる。次第に嗚咽が聞こえてきてどうしようもなく罪悪感に襲われた。

「悪いとこ全部直すし束縛もしない、もう俺だけを見てろなんてわがままやめるから…!」
『精市…。』
「好き好き好き愛してるんだよ南。」

好き、と聞いたのは告白されて以来だ。あれから彼の口から好きと聞くことはなくて私もいうことがなかった。なんだか独り善がりみたいだったから。

『私も大好き。』

それだけで許してしまう私はつくづく単純で甘い。




prev|next

back

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -