テニス | ナノ

 幸村精市の脳内花畑

あぁ、南は本当に可愛いなぁ。白い肌も丸くて大きな目も長く巻かれた茶色の髪もすべてが愛しい。俺の名前を呼ぶ透き通る甘い声は俺を更に深くまで侵食させてはまらせる。

『幸村くん?』

また甘い声が俺の名を呼んだ。

「何?」
『さっきから手が止まってるよ。』
「あ…、ちょっと考え事をしてた。」

そう、今は俺が一番好きな教科である美術の時間だ。そんな時間に手が止まっていたのが南にとって不自然だっただろうか。画用紙には描き途中の絵がある。花畑に空に中央に一人の少女。俺の大好きな水彩画。筆には何故か絵とは不似合いな赤い絵の具がついていた。一体何をしようとしていたんだ。無意識か?


「幸村くんの絵綺麗だね、中央のは女の子?」
『ありがとう。うん、天使っぽいのをイメージしてたんだけど…、どうかな?』
「んー…、私の中の天使ってのは金髪っていうイメージが。茶髪だと少女っぽい。」
『なるほど。』

天使なんて嘘だ。この中央の女の子のモデルは南なんだから。俺からしたら十分天使に匹敵するけど。

「南は何を描いてるんだい?」
『…お菓子。』
「ふふ、可愛い題材だね。」
『笑わないでよ、…難しいなぁ。出来上がったらブン太に見せようと思ってたのに。』
「…丸井?」
『うん、絵でもいいからお菓子で喜ばせたいなーって。変かな?』


赤く頬を染めて照れる顔は可愛い。この上なく。ただそれは俺に向けられたものじゃない。南は丸井の彼女。丸井を通じて知り合っただけの存在の俺。

分かった。筆の赤い絵の具の意味が。


『幸村くん!それ…。』
「これはこれで完成なんだよ。」


水気を含まない赤が天使を塗りつぶして消した。





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