「結婚、するかァ」

田所と私の関係といえば、所謂友達以上恋人未満といった、曖昧で不安定なものだ。私達は高校生からの腐れ縁で、初めは喧嘩ばかりでお互い嫌いあっていたというのに、なんだかんだで三年間ずっと同じクラスだった。一年生の頃は、こんな粗暴で荒々しくて五月蝿い熊みたいな奴と同じクラスなんて、最悪。と思っていたが、二年、三年と年を重ねていくうちに、田所の色々な面が見れて来て、私達はいつの間にか、何でも話せる、気兼ねのない友人になっていた。そのうち、互いにただの女友達、男友達というよりも大切な存在になり、現在に至る。今ではもう社会人になって、結婚という二文字が現実味を帯びて来たが、なんだかんだ、うだうだと、居心地のいい田所といるのが幸せで、彼氏を作らないでいた。
その日、私はいつものように居酒屋のカウンターで田所とお酒を嗜んでいた。二人でキンキンに冷えている、ジョッキに入ったビールを飲んで、馬鹿笑いをする。職場が違うのだから、当然、学生の頃より会える頻度は減ったが、予定をどうにか合わせて、週に一度は会っているのだから、私達は本当に仲が良い。これはきっと、私が彼氏を作らないで、田所も彼女を作らないおかげだ。どちらかが結婚なんてした日には、私達の関係は終焉を迎えるのかもしれない。そう思うと、時の流れが憎かった。
「…で、また同僚が結婚してさぁ。」
いい具合に酔いが回って、ついつい饒舌になる。話題は、結婚についてになっていた。こうして見ると、自分でも驚くくらい結婚に関心があるのだなぁ、と思う。まるで、全然興味ありません。という風に繕ってきたが、本音では、周りの友人の名字が変わって行くのが寂しいし、置いていかれる気がする。結婚しろ、と両親に言われ続けていて、それがプレッシャーになっている。そんな風に、考えていたようだ。無自覚の考えまで引き出してしまうお酒の魔力は、本当に恐ろしい。
「結婚、そんなしなきゃだめかなぁ。」
「…」
「結婚したら、こうやって田所と飲むのも出来なくなるのかなぁ。そんなの、嫌だよ。」
絞り出すようにそう言って、冷たいカウンターに突っ伏す。火照った顔が冷やされて、気持ちが良かった。
「あのよォ、お前そんなんなら。」
「んー?」
「結婚、するかァ。」
俺と。そう続けられて、私は思わず椅子から落っこちそうになってしまった。結婚、するか。その言葉が、お酒でぼうっとしていたはずの頭にリフレインされる。もしかしなくても、私と田所がって事だよね?

田所の、真っ赤な頬は、お酒のせいか、それとも。


 
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