「そのままでええのに」

なんで変わってしまったのやろ、水田。前はもっと優しくて可愛かったんに、御堂筋が自転車競技部に入部してから急に可愛げがなくなったのは周知のことだった。石垣さんのことあんなに尊敬してはったのに、今は御堂筋くん一筋や。私が話しかけても無視するわ、私が心配しても無視するわ、なんねん水田、恨みでもあるんか。

「水田ー、なんや最近冷たいんやないの」
「そんなことないっすわ」
「あーあ、つまんない」
「先輩そんなこと言うてないで仕事してくださいー」
「水田うっざ」

追っかけっこが始まって部室はひっちゃかめっちゃか、ホイールはくるくる回っとるしサドルは床に散らばっとるし、水田は猿のようにひょいひょい私から逃げて行く。捕まえるんにも捕まえられなくて四苦八苦していると水田がサドルに足を引っ掛け転んでしもた、それに引っ掛かり私まで転んでもた。

「みーずーたー捕まえたでー!」
「痛い痛い、やめて下さいよ先輩」

がっちり腕を掴み水田が逃げないようにする、久々に水田とはしゃいだし追いかけっこをした気がする。一年前まではよう走っとったのに、捕まえとったのに、今の水田は捕まえられん。まるで私から逃げてくみたいに、するするとどこまでも遠くへ行ってしまうんは…成長しとるいうことやろか。知らんけど、知らんけど、先輩少し寂しい気もするで。水田のことは弟みたいに思っとった、せやから余計に寂しい思ってしまうんかもしれへんな。「苦しいっす、先輩」降参、と床をばんばん叩く水田からそっと離れる。あーあ、先輩辛いわ、もっと水田のこと可愛がりたいわ。

「水田は変わらんでええのに」
「…御堂筋くん尊敬してますんで」
「そのままでええよ、先輩寂しいんやで」
「先輩、ほんとは俺だって寂しいの分かってくれはりますか」
「わからん」

分かってくださいよ、泣きそうな小さな声で呟く水田が印象的で、昔みたいな苦笑いを浮かべる彼の頭を撫でてやった。


 
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