「あえて言いますけど」

「あえて言いますけど」

目の前の睫毛の長い方の幼馴染は、私にいつもこう言う。だいたい、そんな風に言うということは、私にとっては嫌な内容であること間違いなしなのだ。

「やっと落ち着く形になったか、って思ってます。」

ちょっと口が悪くて、言いたいことをズンズン言ってくるもう一人の幼馴染は、今日はここにはいない。幾分か優しい声と口調で話してくれる方を捕まえることが出来てよかった、と私は安堵した。

「名前がこれ以上傷つかなくて、僕は今回ばかりは安心した。」

「塔一郎くん、珍しいね。」

「何がですか。」

「私の味方してる。」

「…ユキだったらどうかはわからないよ。」

「うん。雪成くんは、バカ女!って言いそう。」

でもそれも、私のこと心配して言ってくれてるのは、もうわかっているのだけれど。

私は、高校3年間まるまる付き合っていた彼氏に、先日振られた。付き合っているときから、塔一郎くんと雪成くんには、たくさん相談していた。ケンカするたびに愚痴を言って、泣いて、彼氏くん大好きだーすてないでーって喚いて。その度に「あえて言わせてもらうけれど…本当に名前はそれで幸せなんですか?」って、塔一郎くんに怒られていた。その”あえて”言ってくれていた言葉の意味が、ちょっと解った気がした。

「だいたい…名前が起こさなきゃ待ち合わせに遅刻する、気に入らないことがあればすぐ怒る、名前のいきたいところには連れてってくれない?それに、極め付けに浮気を3回も許している。」

「…はい。」

「名前がそれで幸せだと思っていたことが、僕は不思議でしたよ。」

「はい。本当にそうです。」

「傷ついても、謝ってきたら許すなんて。僕は、相手を殴ってやりたくて仕方なかったのに。」

「はい、その通り…て、そうだったの?」

「@名前のことを侮辱するようなヤツでも、殴ることでアナタが泣くのは不本意ですからしませんでした。」

「…ですよねー。」

私がヘラヘラしているうちに、塔一郎くんはスイッチが入ったみたいに論じていた。熱くなると、いつもは紳士的は言葉ばかりが出てくるその口から、ポンポンと皮肉が出てくる。傷心の私の心には、なぜかそれが心地よかった。私のことを叱っているようで、しっかりと庇ってくれているのを感じる。そして私はそれに目いっぱい甘えているのだ。

「もう、泣かないって約束してください。次は、泣かない相手を選ぶこと。」

「うん。」

「ユキにすればよかったのに。」

「雪成くんは彼女いるでしょ。それに、塔一郎くんの方が、優しいから好き。」

「…あえて言いましょうか?」

「…。」

「そうやって好きとか簡単に言うと、僕みたいな単純な男に捕まりますよ。」

「つかまえてくれるの?」

「さあ。…名前、そんなこと言えるなんて、意外と元気ですね。」

「塔一郎くんが、甘えさせてくれるから。」

「ユキに言われてますよ。結局は名前に甘い、惚れた弱みかよって。」

「…嬉しいよ。」

「いつまでも甘えさせるばかりじゃ、ないかもしれないよ?」

「へ?」

「甘えさせるだけじゃ、僕は物足りないってことですよ。」

人が”あえて”いう話は、全てが嫌なことではないにしろ、プラスでもマイナスでも、いくらかのダメージを残してくると、私は改めて学んだ。


 
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