「どうなってしまうんやろな、」

(※成人設定)


ぽつりと隣に並ぶ御堂筋が声を漏らした。普段の飄々とした声ではなく、どこか頼りないその声音に名前は自分より頭一つ分以上高い彼を見上げる。

「どうしたの?」
「…何でもあらへん」
「嘘」
「いいから黙っとき」
「変なの」

納得いかない様子で視線を前に戻した名前を御堂筋はぼんやりと見下ろした。
いつの間にか自分の隣に違和感なく並ぶようになった彼女。自分の日常にまるで酸素のように溶け込んだ彼女。
彼女が、名前が、母のように消えてしまったら自分は一体どうなるのだろう、と御堂筋は思考を巡らせていた。そうしたら、思わず口をついて出てしまったのだ。その後に続く言葉なんて、有りはしなかった。

「僕な、全部捨ててきたんや」
「知ってるよ」
「邪魔だったからなぁんにもいらなかったんや」
「それも知ってる」

唐突に話し出した御堂筋に名前は一瞬目を丸くしたが、すぐにその瞳がやさしく細められる。優しい色を湛えた彼女の瞳に映る御堂筋は、高校時代の彼では考えられないほどに穏やかな表情をしていた。
御堂筋の視界に黄色が見えるのは他でもない名前といる時だ。

「ふふふ、」
「なぁに笑うとるん、ブッサイクやで」
「あ、ひどいなぁ。なんだか嬉しくて」
「何がや」
「御堂筋くんの隣に居られることが」

御堂筋くんが、私を欲しいって言ってくれたことが。

じわじわと頬を紅潮させて笑う名前に、体の奥からくすぐったい感覚が沸き上がる。

「…キモォ」
「言うと思った」

わざとらしく体を震わせて長い舌を出して見せる御堂筋に名前は呆れた表情を作って肩を竦めた。
そんな彼女を無造作に腕の中に閉じ込めれば、案の定御堂筋の胸に顔をぶつけた名前は文句を言いたそうに唇を尖らせた。

「痛い」
「知らんわ」
「顔赤いよ、御堂筋くん」
「名前ちゃんもな」

何気ない日常会話の合間にコツンと額をあわせれば、それだけで二人の心は満たされた。


 
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