「背、高かったのね」

 そう言って隣を歩く銀髪を見上げれば、怪訝そうな表情を浮かべた端整な顔があった。眉間に寄った皺が痕になりそうだと思い人差し指でぐりぐり押し解してやると、すぐさまやめてくださいと止められた。わたしよりも一回り以上大きな手に包み込まれ、そのまま下ろされる。あんまりこういうの照れなくなったなぁ、と付き合い始めた半年前のことを考えると少し面白くないような、成長が見られて嬉しいような複雑な気分になった。

「名前さん、何すか急に」
「や、ユキって背が高かったんだと思って」
「最近測ってないから伸びてるか分かんないっすよ」
「ううんそうじゃなくて、並んでみて高かったから」

 いっそうわけが分からない、見下ろされる視線のなかには疑問が混じっていて、そういう素直なところは年下らしくてとても可愛いと思う。口に出してしまえば、名前さんまた俺のこと子供扱いする、と拗ねてしまうので言いはしないが。拗ねるところがまた子供なんだと、そういうところも愛しく思ってるんだというのは惚気だろうか。

「いつも葦木場くんたちと一緒にいるでしょう? だからあんまり大きいイメージがなくて」
「葦木場と比べられたら誰だって小人でしょ」
「そうだけど。わたしと並ぶとユキ大きいから」
「俺だって塔一郎よりは背、ありますから」
「うん、知ってるよ」

 ユキが目線を落とさなければ、わたしが首を逸らさなければ、視線のひとつすら交じり合わない。隣を歩いても肩の位置は全然違うし、歩幅だってユキのほうが大きい。今まで大して気にしていなかったのだけれど、ユキは照れながらも真っ直ぐ目を見てくれるし、わざわざわたしに歩調を合わせ、こうして手をつないでくれる。二人の間に横たわる物理的な距離を、ユキが気にならないように振る舞っていたのだ。無意識でもそうでなくとも、口元がにやけてしまうのを止められない。

「その、やっぱり、名前さん、は、」
「うん?」
「葦木場みたいなのが……タイプ、っすか」

 予想外のその台詞にユキのほうを見れば顔を赤く染めていて、ゆったりとしたペースで動いていた足も思わず止まってしまう。つないだ手がじっとり汗ばんでるのが分かって、わたしにその質問を投げかけるのにユキがどれだけの勇気を振り絞ったのかが窺える。

「ううん。これ以上遠くなるのはいいよ」

 精いっぱいのつま先立ち、それでも足りない高さはネクタイを引っ張って無理やり合わせた。見開かれた瞳にわたしが映り込む。

「キス、しづらくなっちゃうでしょう?」

 風に揺れる銀髪から覗く耳は赤い。きれいな二重瞼も、泉田くんほどではなくても長いまつげも触れてしまいそうな距離。まだキスには慣れないのか初々しい反応に笑みが零れる。こういうところが可愛くて仕方ない、もう既に癖になっているのが少し怖い。
 別に、無理に背伸びをしなくたって構わない。わたしは背の高いひとが好きなのではなく、わたしに合わせて歩いてくれる初で可愛い黒田雪成そのひとが好きなのだから。


 
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