「傘を忘れたのか?」

土砂降りの雨に立ち往生していると、後ろから聞いた事のある声がしたので振り返る。そこには同じクラスで私が密かに思いを寄せている東堂くんがいた。

「うん、天気予報で雨って言ってたのにね」
「うっかり忘れたんだな。よければ駅まで送ろう!」
「え、なんで」
「止む気配もないし、女子を雨の中走らせるわけにはいかないからな。幸い今日は部活が休みなのだ」
「悪いしいいよ」

東堂くんが住む男子寮と私が向かう駅は真逆にあるので申し訳ない。更に彼と相合い傘で送ってもらうなんて、ファンクラブの子が知ったら...考えただけでゾッとした。まあ、駅まで私の心臓が持つかも怪しい所ではある。

「私なら走って帰」
「遠慮しなくていい」
「わっ、ちょっ」

傘を指した東堂くんに手を引かれて勝手に歩き出す。なんて強引な手段だ!嬉しいけど恥ずかしいし後が怖いので、引き返してもらおうと思い彼を見てぎょっとした。

「寒いわけじゃ、ないよね?」
「ああ」
「そっか、ありがとう」
「構わんよ」

東堂くんは女子を気にしているわりに、慣れていないようだ。茹で蛸顔負けの赤さで平然を装う彼に、小さく吹き出してしまった。

「それに」
「ん?」
「俺が名前ちゃんを送りたいのだよ」

今度はわたしが赤くなる番だった。


 
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