「こういうことがしたかったんじゃない」

もう何度も訪れた寿一の家の、寿一の部屋。
深い紺色のカーペットは冬用なのか柔らかくて、タイツ越しに足を擽る。
無理矢理跨った体は鍛えられていて厚く、私の白い腹とは比べ物にならないくらい硬かった。

ご家族は皆外出されていて、彼女と二人きり。こうなればすることは一つで、寿一でもこんな状況なら手を出さざるを得ない…と思っていたのに。

一人部屋に相応しくないくらい大きなテレビでは、寿一が普段見ることのないような私がレンタルしてきた映画が流れている。去年やっていた人気ドラマの続きに当たる作品だ。
寿一の部屋には自転車に関するものしかなく、自転車に詳しくない私はいつも退屈させられていた。だから一緒に見ようと持ってきたのに、いまは誰からも気にされていない。

恥を忍んで経験者の友達からもらった避妊具も、雑誌を読んで得た知識も、何もかも使う機会がなかった。
そういうの嫌いなのかなって新開くんに聞いたら、「あいつも男だから、そんなことないさ」って言ったのに。

「じゃあなんで、寿一は彼女と二人きりで部屋にいて…ドキドキとか、そういうことしたいって思わないの?」
「…………ああ」

新開くん、相談に乗ってもらって申し訳ないけれど、本当に寿一はそういう気がないみたい。
普段と全く変わらない表情がそれをありありと表していて、好きなのは、こういうことをしたがっているのは私だけなんだって、ただの独りよがりなんだって思ってしまいそうになる。

「…やっぱり、私に魅力がないから?」
「名前」
「確かに色気はないし、胸もないし、スタイル良くないけど、でも…」

寿一と会う日は絶対かわいい下着をつけてるし、ケアだっていつもより念入りにしてるのに、その努力が日を見る日はないというのか。
思わずこぼれた涙を無骨な手が下から伸びてきて、拭うように強く撫でた。
それだけじゃ止まらないことを悟ると、手はさらに上へと進み、私の首の後ろにかかる。

「っ!」
「…すまない」

寿一の首筋に顔を埋めるように抱き寄せられ、寿一の匂いがいっぱいに広がった。
強い力で抑えられているから顔はあげられず、カーペットに涙が染みていく。

「お前を大事にしたいんだ」
「…じゅいち」
「オレのわがままでお前を傷つけた。すまない」

だが、もう少し待ってはくれないか。
もう一方の腕が腰に回って、体がより密着した。
そんなこと言われて突っぱねられるわけないのに。
いまこんなに近くに寿一の体がある。それだけで、まだずっと満たされたままでいられるよ。


 
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