「好きすぎて頭おかしくなる」

「好きすぎて頭おかしくなる。」
相変わらず鬱陶しいチームメイトに、俺はため息を抑えられなかった。
「聞いてくれよ、靖友。」
コイツ…新開隼人の、『今日のあの子』談義は、この言葉を冒頭にして始まる。まず、朝登校している時、どんな歩き方で、どこで躓いて、どこに寝癖があったか。そこから、授業中、昼、放課後と、事細かに、彼女が、如何に可愛く可憐で、美しいかどうかを、約二時間かけて聞かされる。俺はその間、宿題をしたり本を読んだりして適当に相槌を打っているが、本当に奴はこの二時間、一切休む事なく俺に魅力を伝え続ける、というか、自分で彼女の魅力を整理し続けているのだから、本当に好きで好きで仕方がないのだろう。心底気持ち悪ィ。
「でな、あのスカートから伸びる足がすごく綺麗で…」
「あーハイハイそうネ。」
適当に返しても、新開の話が止まる様子はない。全く、コイツはモテるっていうのに、鼻息を荒くして語る様子は、なんだか勿体無さを感じるところがあった。
新開は、その恵まれたルックスと、落ち着いた口調。女子の心を掴む話術から、東堂と張り合うくらいに、女子からの人気がある。そして同時に、新開は、どこからの噂なのかはさっぱりわからないが、「女たらし」と言われていた。どうやらこれは、本人は知らないらしい。しかし、箱根学園の生徒の間で、「新開は女にだらしがなくて、ヤリ逃げなんかも平気でする。」というのは、有名な話である。それでもモテるのだから、この男は一生女には困らないんじゃないだろうか。しかし、ただの童貞だというのに、こんな噂を流されるというのは、些か同情をしてしまう節があった。
「あー、私、新開くんはあんま得意じゃないなぁ。女の子にだらしないの、怖いじゃない。」
たった今、新開が必死に魅力を語っている、彼女が友人と話していたのを思い出す。新開かっこいいよね、なんて話になって、彼女の吐いた感想はそれだった。俺は偶然聞いてしまったのだが、その時は、生まれて初めて、本当に人の事を「可哀想だ」と思った。あまりにも残酷すぎる、これだけ好きなのに、相手には勘違いで距離を置かれているだなんて。
「頭がどうにかなりそうだ!あの子も、俺を想ってそうなれば、いいのになぁ。なんて、烏滸がましいけど思っちまうよ。」
「アー、そうだな。頑張れヨ…。」
ご愁傷サマ、心の中で小さく呟いて、目を逸らす。しかし、コイツはその程度の障害で諦めるような奴ではないだろう。いつか、彼女とうまく行くように、チームメイトのよしみで、手伝ってやらない事もない。なんて、柄にもねえな。


 
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