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9.濡れ女


「―ッ!…まぁ、こんな暗いし予想はついてたよ!」

巨体があたしをめがけて天井を這いながら尾を振り回す。あたしは一瞬で妖怪の姿になった。

「濡れ女…?」

相手の姿は濡れ女という妖怪にそっくりだからおそらくそうだろう。濡れ女とは、人の顔・蛇の胴体を持つ妖怪。名前の由来は常に髪が濡れているからだ。

「あたしがいくら水竜の先祖返りだからって、あんたの濡れた髪は嫌だ…」

水に関係した妖怪とはいえ、仲間でもなんでもない。

「おい!体張るのは男の仕事だぜ!!」

背後の下から聞き慣れた声。この声は…

「卍里くん!?」
「女子供は下がってな!」

………豆狸の姿で言われてもなんか納得ないです。

「いーよ。こんくらいあたし一人で平気…卍里くんは下がってて」
「無理だとナメんなよ!?狸だって狐に負けねーぐらい化かすのは得意なんだぜ!」

一瞬で無数の豆狸が濡れ女へと向かう。ぽひゅん、と音を立てながら数が減っていく。あたしはその隙をついて妖力を放った。

水竜の先祖返りであるあたしは、空気中の成分を使って水を作り出し操ることができる。湿気が多い今日は絶好の水使い日だ。

作り出した水を一気に濡れ女へと放出する。濡れ女は天井から落ち、床へ倒れた。

「やったか」
「まぁね…こいつらに『死』はないし、これも朝には跡形もなく消えてまたどこかで出現するでしょ」

ところで、と豆狸姿の卍里くんに向き直りしゃがむ。

「なかなかやんじゃんか…?まぁ、助かったかもね♪」
「素直にありがとうも言えないのか!」

だって、あたし一人でも楽勝だったし――

「!!」
「るりっ!?」

全身に痛みが走った。

倒したと思ってた濡れ女にまだ意識があったらしい。窓ガラスに叩きこまれ、そのまま下に落ちる。
あ…落ち、る――――――


「るりちゃん、渡狸…」
「落ちちゃうよ……?」


目の前に巨大な骸骨が現れる。
落ちると思い、全身をコンクリートに打ち付けると覚悟していた体はそれ以上落ちることはなかった。

「けほっ。…カルタちゃん?」
「大丈夫…?」
「うん、あたしは――って、卍里くんは!?一匹しかあたしの隣にいないんだけど!」
「渡狸…いる」

まさか、あの無数にいた卍里くんの中から一匹だけ本物を選べたのか。

どろん、と豆狸の姿が高校の制服を着た男に変わる。え、本当に…!?

「おぅ。よく判ったな」

カルタちゃんはふんわりと微笑んだ。

「わかるよ。第六…じゃなくて、五感…もダメで。五臓六腑?で…」
「それ違うな」
「五臓六腑は臓器だよー」




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