8.新生活
ちよちゃんが不安がっていた学校生活も二週間が経過しました。
『先生!髏々宮さんがアルコールランプで焼きのり炙ってます!』
『先生!竜条さんが早弁してます!』
『先生!髏々宮さんが宙を見てます!』
『先生!竜条さんがマラソンを3周多くやってます!』
ちよちゃんよりカルタちゃんが心配です。カルタちゃん、まさかの行動連発だよ…!
「…僕は君も髏々宮さんも同じくらい心配だ」
「え、なになに?何か言った??」
*
「ん、ぅ…」
ただいま数学の時間…。マラソンで力を使い果たしたあたしは、開始5分で既に睡魔に襲われていた。かくん、と頭が揺れる度に一瞬だけ目が覚める。それの繰り返しはいつものことだった。
ガラッ
「ふぇ?」
授業中は開くことのない教室の扉が突如開いた。
「あ、カルタちゃん…」
右手が傷だらけの見慣れた少女が体操服のまま入ってきた。その状況にクラスメイトが驚くのは当然。教室は、ひそひそ話という声に包まれた。ちよちゃんや卍里くんを横目でちらりと見ると二人も浮かない顔をしている。
あたしもあまり気にしないようにしようと考え、窓の外に視線を逸らした。
「おい てめーら!俺の方が不良だぜ!」
「渡狸座りなさい」
……うん、カルタちゃんを助けようとしたのはわかるけど立ち上がって叫ぶのは止めようね、卍里くん。
*
「終わったー♪」
一番に教室を出たあたしは、早く帰ろうと昇降口へ走るように向かう。えへへ、今日はマンガの発売日だから寄り道するんだー☆
昇降口に行くと聞き慣れた声が聞こえた。
「ねー、なんでうさみみなのー?」
「人生の遊び人だからさ☆」
「意味分かんない〜」
「ミステリアスな妖精さんだからね〜☆…あ、るりたんだー」
黒いうさみみがくるっと振り返る。……やっぱり…。
「残夏くん………なんでここに…」
「なんでそんな迷惑そうな顔するのかなー?」
「いえ、なんでもないです。なんでそんな近いのドキドキを越えて怖いんですけど」
ぐっと腕を掴まれ距離が近くなる。え、なにかなその表情は…。
「るりたん、保健室ってどこ?」
「保健室…なんで?」
「渡狸が怪我して保健室にいるらしいからさ」
「はっ!?は、早くいいなよっ!」
あたしは発売のマンガなんか忘れて残夏くんの手を引きながら保健室の方へ駆け出した。
*
「あらら、ボロボロじゃないの」
保健室ではいかにもケンカというケンカをした跡がある卍里くんがベッドに座っていました。
「ケンカでおった傷は不良の勲章だ!」
「だっ、大丈夫!?卍里くんっ」
ぱたぱたと焦って近寄るあたしとは対照的に椅子を出し始める残夏くん。あたしが近づくと卍里くんはそれを拒むように手を前に出した。
「ケンカしたんだって?先生が理由聞いても言わないらしいけど〜」
「……卍里くん?」
何も言わずに黙ったままの卍里くんに残夏くんが動いた。
「あのね、るりたん。渡狸がいくつまで白ブリーフだったかというとー」
「ふぇ?」
「わーっ!わーっ!言うっ言うから!!」
卍里くんは深呼吸をして一息おき、話し始めた。
「カルタの事頭おかしいって言ったんだ…」
「…カルタちゃんを…?」
「確かにあいつは何っにも考えてねぇ。でもいいんだ。あいつは何も考えてなくても解ってるんだちゃんと。考えるよりももっと深いトコ…きっと、本能とかで何が正しいか解ってるんだ」
…な、なんか……難しい話…。
「そう…あいつはジャングルのヒーロー。ターザンみたいなもんだ」
「ぎゃはははは!!ひひひひひ!!ははははは!!」
「あはははははははははははっ!」
「笑うなぁぁぁぁぁぁっ!」
さっきまで難しい話だと思ってたのに、気付いたときにはお腹が痛いくらい笑っていたあたし。
隣では残夏くんが椅子から転げ落ちそうなほどお腹を抱えて笑っていました。
ガララ…
「渡狸…」
「!」
「カルタ…」
「あ」
保健室の扉が開いた音に合わせて視線がカルタちゃんに集中する。先ほどまで話題に出ていたターザンだ。………ターザン?
「それじゃボクらはお暇しよーかね〜」
「あ、うん…」
早く、と残夏くんに急かされ席を立つ。
振り替えれば、さっきまでと全く違った表情(かお)の卍里くんとそれに心配そうに近よるカルタちゃんの姿がそこにあった。
*
「竜条、そこ片したら帰っていいからなー」
「ちょ、先生!なんであたしなんですか!」
「お前今日試験管何本割った」
「……6です」
科学の時間に勢いよく薬品が入った試験管を割ってしまい、残されたあたし…。
「…片付けしたら弁償しなくていいって言ったしなぁ」
カタン、と備品を片付けながらため息を漏らす。だんだん空も暗くなってきた…早く帰らなきゃ。
理科室の鍵をし誰一人いない廊下を歩く。まだ夕方なのに暗い。遠くには雷鳴さえ聞こえる。
「あーあ、早く帰――!?」
あるはずのない水が天井から落ちてきた。
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