5.先祖返り
竜条家。それは、始祖の妖怪…『水龍』を先祖とする先祖返りが生まれた家。さらなる繁栄を願った竜条家は生まれた先祖返りを祀るように幽閉した。でも、そんなのはあたしが許さなかった。 *「嫌だっ、嫌ぁぁぁぁぁぁぁっ」 幼い少女の悲鳴が響く。泣き叫ぶ声とそれを覆うように少女を囲む大人達。大人は言う。『それが、先祖返りの運命』だと。大人は言う。『しょうがないこと。貴方の力が大きすぎる』と。だから、 少女――あたしを幽閉すると。 水竜の先祖返りなあたしは幼いながら大きな力を持っていた。その分、自分で制御をするのが難しかった。だから誰も傷付けないよう周りを拒んだ。…それが幼いあたしが決めたこと…だったのに。 「ずっとお家の中なんて嫌だよっ!外出たいよ!!」 それをわざわざ閉じ込めようなんて、可笑しな話。わかってる。自分が悪いことぐらい。なんであたしは先祖返りなんだろう。どうしてあたしなんだろう。 やっぱり、無力なあたしは。従うことしか出来なかったんだ。 どうしても外に出たい。そう何度も訴えた。そうして出された条件。『自分で力を制御出来るようにすること』『中学生になったらこの家を出ていくこと』これが出来れば学校には行かせてもらえるらしい。 それを聞いた日からあたしは変わった。 まず、自分の力を制御すること。…難しい。ちょっとした感情で力を出さないようにするのは難しかった。幽閉された日から二年たち、ようやく自分で力をコントロール出来るようになった。 そうしてあたしは、翌年…小学校三年から入学した。入学するまでに二年間の教養をしっかり身に付けた。ただひとつ、不安だったのは…コミュニケーション能力。自分の力で誰かを傷付けないように他人とあまり関わらなかった。制御出来る今だったら、心配なく関われる。そう思ったのに…。 「竜条さん家ってお金持ちなんでしょー?」「あ、それあたしも知ってる!ママが言ってたもん!」「竜条さん家おっきーもんね」 先祖返りであることを知らない周りの子達はあたしを別枠の人間とみた。 みんな、あたしを見てくれない。『竜条』の娘として見る。 あたしが頑張って手に入れた外の世界は、空虚でただの飾りにしか過ぎなかったんだ。 「初めまして…」「え?」 教室の中で休み時間は読書。小学生ながら外で遊ぶのは嫌いだった。いつも通り読書をしていたあたしの頭上からふわふわした声が降ってきた。見上げると、給食の残りらしいパンを食べてる女の子が。 「えと…髏々宮さん…だっけ」「髏々宮カルタ…」「…何か用、ですか…」 人と話すのに慣れてないせいか、冷たい態度をとってしまう。 「うん…わたし、るりちゃんと友達になりたいなぁって…」「……………へ?」「ダメ…?」 うっ、可愛い…じゃなくて! 「あ、あたしで良ければ…」「…!ありがとう…!」「あああああたしこそっ//」 こうして、入学から5ヶ月の秋。初めて友達が出来ました。 * 「ん、あー…」「目覚めた…?るりちゃん」「はい…授業中の居眠りは静かで最高でした」「最高では困るがな…」 休み時間、カルタちゃんに起こされたあたし。背中を反らし、大きく背伸びをする。 「随分寝てたが…夢でも見てたのか?」「えへへ、ちょっとね」 夢、か…。 小さい、幼い…昔の記憶に。ちょっとだけ、夢見ました。
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