3.淋しがり屋の犬
「あ!ちよちゃん達いたよ、連勝くん」「そうだなー」 イスに座っているちよちゃんとすぐ側に立っている双熾くんを見つけ早めに歩く。連勝くんが持った白い箱…ケーキが入った箱の中身をくずさないようにあたしたちは急いだ。 「悪りー悪りー、待った?」「ケーキ?…何か今日はらしくないな」「何で。俺とケーキ。超しっくり」「しっくりー♪」「君とカップ麺なら何の疑問も持たないが」 しっくりとか言ったけど、確かに連勝くんのキャラじゃないね…。あたしもちよちゃんの立場だったら不思議に思うかも。 「お二人は仲がよろしいのですね」「は?君の目はふし穴か」「まーな。つきあい長いし」「幼なじみ…なんだよね?」「そーそー」 連勝くんの手がちよちゃんの頭にぽんとのった。 「まー俺は凜々蝶にとってお兄さんみたいなもんかな」「ただの近所のな」 お兄さん的存在かぁ…。あたしと双熾くんも幼なじみで…あたしから見たら双熾くんもお兄さん的存在なのかな。年上だし。 * 「必要なものは揃ったな。そろそろ帰るか」「え」「え?な、なんだ?竜条さん」「ま、まだ居ようよ。6時ぐらいまでさ」「何で6時?あやしいな、君…」 だだだだって!まだこの時間じゃ準備出来てないかもだし…。連勝くんにアイコンタクトで助けを求める。まだ戻っちゃダメな時間だよねっ!? 「そーそー。るりの言う通り。他に買うもんないの?えーと…御狐神サンは?」「僕は凜々蝶さまのSSとしてご一緒しているのですから。どうぞお気になさらないで下さい」「いやいやっ、それじゃあつまんないでしょ?ねっ!」「まさか…。竜条さんは先ほどから随分必死ですが、どうかされましたか?」 ぎくぅぅっ! 「え?な、何も――」「そうですか?」 うわぁっ、こういう時の双熾くん勘が鋭いんだよ!バレたら野ばらちゃんに怒られちゃうし…。 「あ、北海道物産展だね!見に行こっか連勝くん!!」「え。俺?いいけど…。凜々蝶たちも行こーぜ」 *** 「ただいまー」「何故ラウンジ?」 不審がってるちよちゃんを“いーからいーから”と無理矢理連れていく。既に一反木綿の姿に変化している連勝くんがラウンジの扉の前に浮いたとき。 ガン 「あら」「野ばらちゃん!」 野ばらちゃんが勢いよく開けた扉により連勝くんが挟まれました。一反木綿の姿で良かったね!「カルタちゃんにおつかい頼んだけど帰って来ないの」「え…?だってもう、逢魔が時じゃ…」 あたしたちには危ない逢魔が時。 「凜々蝶さまはここでお待ちを」「言ってる場合か。早く済ませるぞ」「あっ、あたしも行く!」 そうして、あたし・双熾くん・ちよちゃん・連勝くんはカルタちゃんを探しに出かけた。 * 「広いから手分けしようぜ」 連勝くんのこの言葉であたしたちはお互いの連絡先を交換した。やった、ちよちゃんの番号ゲットだね! 一反木綿に変化し、カルタちゃんを探しに行こうとした瞬間。 「馬鹿が!行方不明者を増やしてどうする!」 風に飛ばされてる紙切れのフリに耐えられなかったちよちゃんの足元が黒に変わった。 「!」「凜々蝶さま!」「ちよちゃんっ!!」 あたしと双熾くんの目の前に真っ黒な何かが現れる。冷たい…壁かな。きっとこの壁の向こうにちよちゃんがいるんだろう。……だから逢魔が時は嫌なんだよなぁ。 「凜々蝶さま!凜々蝶さまご無事ですか!?」「…あたし、様子見てくるよ。双熾くんはこっちからなんとかして」「竜条さん…!?」 あたしは、妖気を放った。ほどかれて下におちる長い髪。巫女装束のような姿に短い袴。 隠せない妖気。 「お、あんまり変化したがらないるりが」「緊急事態だから。あんまりしたくないんだけどね」 水竜の先祖返りなあたしは、空を飛ぶことが出来る。竜は昔、天の使いだったらしい。 双熾くんも変化していた。 あたしは、地面を思い切り蹴りとばした。 「ちよちゃん」「竜条さん!」 ちよちゃんは冷静に暗闇の中立っていた。この黒い壁は『塗壁』という妖怪らしい。 「まさか竜条さんが来るとは…僕は反ノ塚が来るのかと」「あ、置いてきちゃった☆」「置いてきた!?」「そうそう。双熾くん、心配してた」「……彼は無事だったか?」「うん、すごい心配してたけどね」「…ふん。こんなもの…破って通ればいい!」「っ!?」 ちよちゃんが妖気に包まれる。強風とともに変化した姿。つ、角可愛い!あたしと服装も似てるし…。 「悪いが斬り捨てるぞ!淋しがり屋の犬が待っているからな!!」 真っ黒な壁に薙刀のようなものを斬りつける。 パァァン 視界が広く明るくなった。 「凜々蝶さま…っ。ご無事で…!」「ふん…大げさな奴だ」 あたしたちが再会してる間に連勝くんは電話してました。あたしたちにも聞こえた今さらな言葉。 「ん?カルタ帰ってきた?」 「よ、よくある話だね!」 あたしたちは苦笑いしか出来なかった。
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