届いた花





『私、この小屋はお店にして、これからも教会で住むことにしました!』


その言葉に真っ先に反応したのは


「え!?リ、リリー!なんで?」



星。



『シスターが寂しがるから。』

「は、はぁ!?シスター!あんた昨日の一晩で何言ったんだ!?」

「特に何もしていないが。」


シスターはけろっとした顔でそう告げる。

この一連のやり取りを周りの住人たちはほのぼのと見つめ、マリアはシスターを蔑んだ目で見ていた。


『というわけで、花屋ができたら是非来てください!』


住人たちは楽しみにしてるよーと、笑顔で散らばっていった。


彼を残して。





「星、いつまでいじけているつもりだ。」

『え、星いじけてたの?』


小屋の横で体育座りをしている星。


『星、なにがあったか分からないけど、元気だして。』

「誰のせいだと思って…」

『あ、そうだ!星にお願いがあるんだけど!』

「俺に…?」


『うん、私って服これしか持ってないでしょ?』

「まぁ、昨日も一昨日もずっと同じ格好だな。」

『それでね、星に服を貸してほしいの。Tシャツとかで良いんだ。ニノは服装アレだし、P子ちゃんのはサイズが小さいし、マリアさんは…頼みづらくて…』

「あー、そうだな。分かった!良いぜ!」

『ありがとう、星!』



「(ってことはこれから毎日リリーは俺の服を着るのか…?)」


星はそれから考え込むと、顔を真っ赤にして走って行ってしまった。


「いいいいつでも貸してやるからァー!!」

『うん、ありがとうー!』



「星は忙しいやつだな。」

『見てて楽しいです。』

「む…そうか?そうだ、リリー。肝心の花はどうするんだ?」

『あ、それならちょうど良いものがあるんです!』

「なんだ?」

『明日になれば分かります!』


その時のリリーはとてもわくわくしていた。



ーーーーーーーーーーー



-次の日-



『私、前に住んでいた家に行ってきます!』

「か、帰るのか!?」

『違いますよ。届きものが来るんです。昼には帰りますね。』


そう言ってリリー元自分ちへと向かって行った。





『自転車よく盗まれないな。』


家の前に放置したままの無傷の自転車。

それと一緒に届きものを待っていた。



『あ!来た!』


リリー、もとい苗字名前の店に届いたものは、


「花のお届けに来たんですけど、本当にここ、あの店ですか…?」


トラック1台分の花+α。


『あ、三井さん。いつもご苦労様です。』


もう店の物品配達のお得意様になっている三井さん。さすがに驚いている。


「苗字さん…店どうされたんですか?」

『ちょっと燃えてしまいまして。それでその頼んだ花、違うところに運んで欲しいんです。』


今からちょっと前のお話。
家が火事にあう1週間程前に花の在庫を注文し、それが今日届く予定だったのです。


『(前払い制にしてて良かった…。私って変な所でついてる。)』


三井さんが話の分かる人だったのも良かった。トラックの助手席に座らせて貰って、河川敷へと向かう。


「それにしても驚きましたよ。店が火事になってその上、河川敷に住んでいるなんて。」

『私もびっくりですよ。帰ったら燃えてたんですから。』

「大変ですよね…あ、着きました。案外近いですね。」


堤防の阪の緩いところから入ってログハウスの所へと向かった。


「わぁ…これ1人で建てたんですか?」

『いや、ここにいる人たちが皆手伝ってくれたんです。凄く良い人たちなんですよ!』

「そうみたいですね。こんなに嬉しそうな苗字さん初めて見ました。」


横で笑われながら言われて恥ずかしくなった。


「運んじゃいましょうか。」

『はい』


量が多いといっても花だけなので、いつも私と三井さんだけで運んでいる。

今回は花だけじゃなく、鉢や種、ラッピング用品なども注文していたのだ。


『(私、とことんついてる…)』


家が火事になる時点でついてはいないのだが。


「ふぅ、あと半分くらいですかね。」

『そうですね。あとちょっと…「あー!リリーさーん!!」』

「り、りりー?」


遠くから走ってくる鉄人兄弟。


「すごーい!本当にお花屋さんだ!!」

「綺麗だね!!」


きゃっきゃっと小屋の周りをぐるぐる回ったり、中を覗いたりしている。


「この子たちは…?」

『ここに住んでいる子です。』

「ずいぶんユニークな被り物を被っていますね…。それとリリーっていうのは…?」

『ここでの私の名前なんです。』


「大変ですね。」



慣れって怖い。



「リリー、帰っていたか。貴様は誰だ?」


カチャ
「ひぃぃいい!!」

『あ、シスターダメです!この人はうちのお店の配達員さんです!』

「そうか。それにしても凄いな。こんなに多くの花を見たのは久しぶりだ。」

『たくさん来ましたからね。この小屋もだいぶお店らしくなりました!』

「星たちが見つけたらまたうるさくなるだろうな。」

『ふふ、そうですね。』


「……」



もうなにがなんだか分からない半パニックの三井。仕事癖か、黙々と荷物を小屋の中に運んでいった。




ーーーーーーーーーーー




「終わりましたよ!」

『あ、ご苦労様です!』


小屋に入ると一面花に囲まれていた。


『わぁ!あの小屋がこんなに…』


三井が花を小屋に運んでいた頃、リリーは植木鉢に種を埋めていた。


『今まで以上に育てて注文にお金を使わないようにします!』

「頑張ってください!もうそれしか言えないです。」

『三井さんもありがとうございました。またよろしくお願いしますね。』

「はい、任せてください。それじゃあ。」


爽やかな笑顔を振りまいて去っていった。


『シスター!これで花屋が始められます!』

「あぁ、そうだな。」

「おー、凄いな。」


『ニノ!』

「綺麗な店だな。」

『うん、ありがとう!』

「リリー!店できたのかよ!」


ぞろぞろと星の後にもいろんな人が見に来た。


そんな中、


「リリー!」


1人遅れてやって来たのはP子。


『P子ちゃん!どうしたの?』

「これリリーにあげようと思って持ってきたの!」


はい、と渡されたものは大きなバケツ。その中にはシャベルにホースにじょうろ。他にも軍手などが入っていた。


「私、畑で野菜を作ってるの!同じ植物作りとして頑張りましょ!」

『P子ちゃん…!』


今年一番の感動。


『ありがとう〜』



リリーが抱きつくとP子は嬉しそうに笑った。



『皆さん、今日から私のお店をよろしくお願いします!』



リリーの花屋、開店。



ーーーーー


(リリー、それってタダなのか?)

(そうだね、河川敷の皆はタダかな?でも勝手にとっていくのはダメですよ。)

(リリー、トラップでも仕掛けておくか?)

(絶対に止めてください。)

 

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