『星、なにしてるの?』
河川敷の平地で星がギターを抱えて座り込んでいた。
「お、リリーか。今な、新曲のレコーディングしようと思ってたんだよ。」
ほら、と右手に持っているのは録音機。
『わぁ、新曲できるんだね!楽しみだな〜。私邪魔かな。』
「そんなことねえよ!居てくれたほうが逆に気合い入るから。」
『そう?じゃあ聴きたいな。音出さないようにするから。』
「ああ、ありがとな。じゃあやるか!」
ギターを構えて録音のスイッチを入れた星からは楽しそうな歌声が響いた。
―――――――――――
曲も終盤、今回もいい曲を作ったなぁと思ったその時、
〜♪「…ブラックホール萌えぇぇ!!」
「……」
『……』
星の歌はピタリと止まった。ちょうどそこで歌が終わったからだ。
「…ちょっと聴いてみるわ」
『うん…』
今のはいったいなんだったんだろう。後ろの方を再生したら案の定、
「入ってるよ…」
『もうちょっとだったのにね』
萌え〜〜、というよく分からない声が入っている。
「ったく、誰だよー。ちょっと見に行こうぜ。」
『うん』
すぐ近くに人影がいる。あの人かな。
「てめぇ!水切りする時は水中に河童がいねぇか確かめてからにしやがれ!!」
見たこともない人に、村長が先に怒っていた。
「本当だぜぇー、レコーディング中に大声出すなよなぁー」
星は再生ボタンを押しては残念そうにしている。
何度聞いてもあの叫び声が入ってしまっている。
「何だい君達は!?」
この人すごい髪型だなぁ。
「俺は普通に河童だけど。なぁ?」
『私は普通の河童が分からないので聞いてこないでくださいよ』
「俺は…ボソッ(この可愛い天使と金星人のハニーのために)歌を録音してたんだよ」
『星なんて言ったの?』
「なんでもないなんでもない」
「ちょっと待ってくれ!今君は金星人と言ったか!?」
『金星人?』
「てめっ、俺がなんのために小声で言ったと…!」
「それは異星人という事か…!?」
「そうだよ。「まさか!!
そんな事がーーーーー!!!!…
……
…………
……………あぁ………
脱稿直後に出る、いつもの幻覚かぁ…」
その人は一瞬で顔が暗くなった。
「こんな都合よく金星人に会える訳ないだろうな…全くやってくれるよ俺の脳は…」
「…何か苦労してそうだな。」
『はい…』
「あぁ…」
―――――――――――
しばらくブツブツ言ったあとは向き直ってまた何か言ってきた。
「すまなかったね幻覚諸君、僕はこれで失礼するよ。ぼくはリアリストなんだ。」
去ろうとする彼に村長がちゃちゃを入れる。
「俺は幻術は使えても俺自身は幻覚じゃないぞ!」
『ツッコミのリクがいないんですから、いきすぎた発言は控えてください。』
「いいや幻覚だね。そこの天使も、止めなくていいんだ。」
『て、天使?』
「いやっ、リリー!こいつの言ってる事は気にするな!な!」
なんで星が焦っているんだろう。
「地球上でそんな好き放題な生き物がいてたまるもんか!」
「あん?」
なにかを諦めたかのような、切り捨てるような言葉。村長も星も反応した。
「地球では自分の願う通りになんて生きられないものなんだよ。君達みたいな幻覚には…
「おいおい、一体どこの誰に言われたか知らねーけど、」
星が眉間にシワを寄せて前に出た。
「だめとか違うとか言ってくるやつらは、人数いるだけで神様でも何でもねーんだぜ。」
村長と目が合うとニッと笑われたから笑い返した。
「まぁ俺も外野の一人だから、この話もしっかり聞いちゃーだめだけどよ。」
村長から星に目線を変えると、彼もニッと笑った。
「自分のハートが言ってる事を一番親身になって聞いてやんなきゃいけねぇぜ。」
そう、それがこの河川敷に住む人たちの一番誇れる行為だ。
―――――
(星、かっこよかった)
(マジで!?)
(マジマジ)
(いや、村長に言われてもあんま嬉しくない。)