12月31日。今年が終わり次の年になる前日である。
「リリーさーん!来年まであと何時間ー?」
『あと6時間だよー』
「今年こそは起きて年越しするけん!」
時刻は18時。
この日、シスターの教会にはちびっこ達が集合していた。
リビングではリリーが鉄人兄弟、ステラとソファの上でごろごろしており、一方のシスターはキッチンで料理を作っている。
『(手伝いたいけどステラちゃん達を放るわけにはいかないもんね。)』
美味しそうな匂いを吸い込んで、ソファの上で子供に囲まれながら目をつむった。
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「夕食できたぞ。そろそろ起きろ。」
目を開けるとシスターが鉄人兄弟達を起こしていた。どうやら全員寝ていたようだ。
『…あ、ほらステラちゃんも起きて。晩ごはん食べよう。』
シスターは鉄人兄弟、リリーはステラに取りかかった。
「ん…、シスターのご飯?」
『うん。ほらこんなにいっぱい…って美味しそう!シスターこれ全部作ったんですか?』
「あぁ、今日は鉄郎達もいるしな。気合いを入れた。」
「すごーい!さすがシスターさんだー!!お兄ちゃん早く食べよう!」
「美味しそーう!」
『じゃあ食べよっか。はい、いただきます。』
「いただきます。」
「「「いただきまーす!」」」
イギリスのクリスマスの食事は量も種類もだいぶあるのだが、シスターの手作りともあってその大量のディナーは一瞬で無くなった。
「お腹いっぱいになっちゃったー」
「シスターさん、ご飯おいしかったよ!」
「それは良かった。…あぁ、もう9時か。」
『今年は皆けっこう起きれてますね。』
年越しの瞬間は起きていようと心に決めている鉄人兄弟とステラだが、去年はすぐに寝てしまったのだ。
「いつまで続くだろうか…」
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シスターの思惑通り、子供たちはお腹いっぱいになった後、粘りながらも最終的には寝てしまった。
「鉄雄と鉄郎は私が運んでいく。ステラは頼むな。」
『はい。』
ステラはさっきからリリーの服を掴んで離さない。
『今年はいけそうだったんですけどね。』
ステラをだっこしながら言う。
「まぁ、眠くなったら寝たら良い。リクや星と同じく馬鹿みたいに起きてるのは体に悪いだろう。」
リクはニノと年越しすると言ってわくわくした足取りで準備をしていた。星はその邪魔をしに行っているのだ。
『星はなんだかこっちに来たそうでしたけどね。あんな速攻で断らなくても良いじゃないですか。』
「いや…(こちらの邪魔をされるのも困るしな…)」
ゆったりとした時間が流れた中、静かに子供たちを客室に寝かしつけてきた。
『今年も終わっちゃいますね。』
時間は11時を過ぎていた。
「今年も慌ただしい一年だったな。」
『ふふ、なんだか来年も忙しくなりそうな気がします。』
「……リリー」
シスターはソファに座るリリーの隣に座った。
『はい?』
「来年も私の側にいてくれるか。」
横に置いた手に、上から重ねられる。
それを握り返した。
『当たり前じゃないですか。そんなこと聞かないで下さい。』
軽く笑みを浮かべると後頭部に手がそえられて、優しく引き寄せられた。
「そうだな、ありがとう。」
身を寄せたままにしていると何かが髪に触れる。
それが口付けだと気付くのは遅くはなかった。
『(外国の挨拶って怖い……)』
赤くなった顔を見られないようにずっとうつむいていた時、
「リリー」
『なんですか。』
「Happy New Year」
『え?』
顔を時計の方に向けると針は12時を越していた。
『あ、年明けた…あけましておめでとうございます。』
「あぁ、今年もよろしく頼む。」
『はい、こちらこそ。』
寄り添った体も、重なった手も、その状態のまま、急にやって来た睡魔に身を預けた。
――――――――――――――
「んー…、あ、朝だぁ。ステラちゃん、起きてー。」
「鉄郎けー?おはよう。鉄雄はどこ行ったんじゃ?」
「あれ、そう言えば…。あ、お兄ちゃーん!」
鉄雄はリビングに続くドアに張り付いていた。
「しー!静かにー!」
「なになに?」
「なんかあるんけ?」
三人がドアの隙間から見た風景は、
「幸せそうだね…」
「もうちょっとあのままにしてあげよう。」
シスターとリリーがソファで寄りかかかりながら寝ていたのだった。
耐えきれなかった子供に抱き付かれて起こされる30分前の出来事。
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(こんなところで寝ちゃった…。シスター起きてくださーい。)
(シスター起きてー!)
(ん…。あぁおはよう。(家族みたいだな…))
(僕達家族みたいだね!)
(ね!)