青空6





星とリクが体を張って皆の願いを届けようとしたその後に、ニノに誘われたので一緒に釣りをしに行った。

一緒にと言っても、橋の上で釣りをするニノの横で観察するだけだが。



『ニノはよくこんな高い所にほいほい上れるよね…』

「恐いか?」

『ううん、なんか慣れちゃった。』


そうか、と竿を構えた時、ニノは何かに気付き立ち上がった。


『ニノ?』


その視線の先を辿るとそこにいたのは、

高そうなスーツを着て仁王立ちのまま河川敷を見下ろす男性。



そこまでは良いのだが、彼はズボンを履いていないように見えた。


『……』ゴシゴシ


目を擦ってみてもトランクスが丸見えになっている所を見ると、やはりそうだった。


『……ニノ、帰ろう』

「あれ、」

『ん?』


ニノが指差した先は橋の遥か上の鉄骨に引っ掛かっているズボン。


『ええ〜…あの人のかな』

「それ」


次の瞬間、ニノはヒョイと竿でズボンを引っ掛かけた。


『え、』


そしてそのまま男性の前に向けた。


「これお前のだろう。ケツ冷やすぞ。」

『ニノ、女の子がケツなんて言っちゃいけませんよ。』



「……断る」


『(………なぜ!?)』


その人は私とニノをジッと見てから、ズボンを否定した。


「他人に借りを作るべからず!これがうちの家訓なのでな!」

『この人リクみたい』

「あぁ。会ったばかりのあいつそっくりだ…」

『もしかしてネクタイに刺繍してたりします?』

「当たり前だ。私は家長なのでパンツにすら縫い込んでいる。」


ネクタイを片手で掴んで見せてきた。


『……ねぇニノ、もう帰ろうよ。』

「いや、頑張っているあいつのためにたくさん採ってってやろう。」

「ほう、何を頑張っているんだ?」

「あぁ、私達は今家から追い出されそうでな。」

『それを体を張って止めようとしてくれているんですよ。』

「……、」


するとその人は何かを考え始めた。


「ほら、ここから見えるぞ。」

「!?」


バッと河川敷の方に振り向いた彼が見たものは、




腰に縄を巻き付けて宙吊りになっているリクルート。




『少し強引ですけど、』

「あれこそが皆の願いを叶える一番星!……私の恋人の勇姿だ…!」

「君たち、視力は大丈夫かね。」




ーーーーーーーーーーー




-市ノ宮積視点-



私がこの場所に自ら足を運んだのも納得いかない理由があったからだ。



【河川敷再開発プロジェクト中止】



大臣からの電話で突然中止の知らせを聞いた。



そして橋に足を踏み入れた瞬間、エキセントリックな子供達によってズボンを脱がされ、橋の上に引っ掛けられてしまった。まぁ、私はこれしきのことで動揺するような男ではない。


そんなことを思っているとおかしな少女達に会った。


何とも言えないような複雑な目を向ける、私の息子と同じくらいの年の少女と、


「これお前のだろ?」


釣竿を使って私にズボンを差し出してきた少女。

こっちの少女は確か行の……!


『この人リクに似てるね。』

「あぁ、会ったばかりのあいつそっくりだ…」


話を聞いていると、あいつは今何かを頑張っているらしい。


追い出されるのを止めようとしているとは……、中止になった事を住人達は知らないのか…?


「ほら、ここから見えるぞ。」


あいつは一体何を…!




そう思って河川敷の方を見ると、宙吊りにされている我が息子。



『少し強引ですけど。』


そう思っているなら止めてやってはどうだね。






……一体計画を止めたのは誰なんだ…。


『あの、』


その時、まだ常識のありそうな少女が話しかけてきた。


「なんだね」

『もう少し…、向き合って話す時間を増やしてみたらいかかですか?』

「君には関係ない事だろう。」

『彼は私達の大切な仲間です。あなたは、父親なんですよ。』


真っ直ぐに見てくる彼女の目はとても純粋に気持ちを伝えてくるようなものだった。


「……ズボンは好きにしたまえ。」


後ろを向いてもと来た道を歩いていこうとした。


「おい帰るのか?」

「私は忙しいんだ。」


その時、





〜♪


「!!」



驚いて後ろを振り向いた。


「ズボンが歌っているぞ!!ほんとに好きにしていいのか!?」

「……着信音だ」


設定したきり、一度も鳴らなかったメロディ…



『……、』

「電話か?出たほうが良いだろう。」

「それは君にとってもらった物だ。……君が出るといい。」



私はそのまま帰路を辿った。





ーーーーーーーーーーー





『行っちゃった……あ、警察に声かけられてるけど大丈夫かな…』


ほってかれたズボンを眺めながら心配になった。


「リ、リリー!これどうしたら良いんだ!?」

『携帯?…リク、からだ。』


画面に表示されている名前は【市ノ宮行】。いつだったかリク本人から教えてもらった本名。


「リクだと!?リ、リクー!」

『あ!待ってニノ!本人を探さなくて良いの!それ!その青いボタン!』


走っていってしまったニノを追いかけながら電話に出るための手段を教えた。


「ボ、ボタン…、これか!」


力いっぱいに押すニノを見て心配になったが、声が聞こえてきたのでつながったのだろう。


【あ、と、父さん!?】


携帯を不思議そうに見るニノの肩越しに見えたのは後ろ向きでうつむいて電話をかける、リクルートだった。


【父さんが何をしようとしても俺がさせませんからね!】


近くにいる彼から直接聞こえるそれは、もう迷いは無いような声だった。




【俺はずっとニノさんと一緒にいますから!!】







「…おぉ……そうだなリク。ずっと一緒にいよう!」

「えっ、ニノさん!?」


心底驚いているリクと、嬉しそうなニノを見てからこっそりと教会の方に戻っていった。





ーーーーーーーーーーー





「ん…?リリーか。」

「やけにご機嫌じゃねーか。そんなにこにこして、」


教会の前でシスターと星に会った。


『え、笑ってた?そんな意識してなかったけど…』

「無意識だったのかよ。ずっとそんな顔してると変な男に連れ去られるぞ。」

「貴様とかな。」

「俺はそんなことしねーよ!」

『私だって小学生じゃないんだから。』

「リリー、あまり星には近づかないほうが良い。」

「なんでだ!!」

『?』


ハテナを浮かべていると、ポンとシスターの手が頭に乗せられた。


「あ、俺もする。」

「貴様は触るな。」

「なんでだよ!!」


二人の手によってぐしゃぐしゃになってしまった頭を押さえつけた。


『どうしたんですか…』

「「撫でたくなっただけだ。」」

『…もう、犬じゃないんだから。』

「分かってるって」




「リリー、おかえり。」

『!……はい!ただいまです!』


今日はずっとその言葉が聞きたかったのかもしれない。


ここの住人となら、何が起きても大丈夫な気がする。


「河川敷の開発だって俺たちがなんとかしようぜ!リクじゃ頼りないし!」

『うん!』


青空



これ以上無いくらいに笑った私達の上には雲1つ無い大きな空が広がっていた。

 

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