河川敷でのイベントは数えきれないほどある。
村長が突発的に発案するのだが、今日は毎年恒例の行事だった。
-春の大マラソン大会-
「こんな年になって走るなんて思いませんでしたよ。」
スタート地点付近で軽いストレッチをする男性陣の面々。
「女の子たちはゴールで待ってるからねー」
女子はP子が運転するであろうトラックの荷台に乗り込んでいく。
「リリー、少し手伝ってくれないか?」
『はい。なんですか?』
その声を聞いたリクがシスターの方を振り向いた時、思わず固まってしまった。
「なんでマラソンにそんな重装備で挑むんですか!」
シスターは機関銃の他に、大量の荷物を背負っていた。
『シスターは毎年こうだよ』
「何でですか…」
「マラソンとは自分との戦いでもある…。いかに多くの困難を乗り越えて達成させるかが問題なんだ。」
「意味が分かりません」
「今年は人命救助も取り入れたい。リリー、乗ってくれ。」
屈んで背を差し出すシスター。
『大丈夫なんですか?』
「あぁ、お前一人くらいどうという事はない。」
そのあと、リリーはシスターに肩車される形で背負っているリュックの上に乗っかった。
「落ちそうか?」
『や、意外と安定してます。』
そんな二人の隣では1人の男が黙々とストレッチをしていた。
「シロさん、なんだか気合い入ってますね。」
「やぁリク君。この行事だけは負けてられないからね。」
『シロさんは去年優勝したんだよ。』
「え、そうなんですか!?意外…」
「リリーちゃんは優しいからね。昨日だって応援しに来てくれたし。」
『頑張ってくださいね。』
「…リリーさんがシスターの応援しない理由もなんとなく分かりますよ。」
シスターは見るからに競争するつもりが無い。
「はいはいはい、魚何匹賭ける〜!?シロ人気だよ〜!!」
ガラガラと荷台を引いて賭けに勤める子供たち。
「何、子供らしからぬ事やってんだ!人の黒板まで使って…!」
「これがわしら子供の仕事じゃい。」
「「仕事じゃい!」」
「鉄人兄弟たちは明らかにこの仕事の内容を知らないだろ!」
「ほら位置についてー、そろそろ始めるわよー」
「あれ!リリー何でシスターの上に乗ってんだ!?」
『シスターに良い負荷をかけてあげなきゃいけないの。』
「リリーさん素直過ぎますよ。」
「俺の応援してくれるよな…?」
『もちろん。星もリクも頑張ってね。』
「リクは余計…」
「頑張ります!」
「私には無いのか?」
『シスターはとりあえず今日中にゴールしてくださいね。』
「…前はいつゴールしたんですか?」
『次の日の朝方。』
「アンタはマラソンを何と勘違いしてんだ!!」
「ほら、喋ってないで。いくわよ〜、よーいスタート!!」
P子がトラックを走らせると同時にスタートした一同。
それに圧倒的な差をつけたシロと村長。
「速っ!なんだアイツら!!」
『わ〜!さすがシロさん』
「シロさんは良いですけどあの河童は何なんですか。」
『村長はマラソンの時はスピーディー河童にフォームチェンジするの。』
「張り切りすぎだろ!短距離の時に活かせよ!!」
『あ、でも…』
スタート地点から数十メートルの所で座り込む緑色を見つけた。
「はぁ、良い天気だなぁ…」
『そろそろ飽きちゃう頃だから。』
「最初からリタイアしろ!!」
「っていうかシスター遠いな。リリーの声だんだん小さくなってくんだけど。」
「なんで開始直後から歩いてるんだ…」
『シスターほんとに大丈夫ですか?』
「このくらい何ともない。」
「リリー、俺達先に行くからー」
『あ、うん。頑張ってねー』
二人の背中が分からなくなるくらいになった所である人物がコースを逆走してきた。
「…シロか?」
『え、シロさん?どうしたんですかー?』
「白い粉が無くなったんだーー!!」
猛ダッシュで家へと走っていったシロ。
『あー…、石灰切れちゃったんだ。』
「こういう時、渡ラーは辛いな。」
渡ラー:白線の上しか歩けない人。
-数分後-
「うおぉぉお!!」
『あ!シロさん戻ってきた!』
「忙しいなアイツは。」
『シスター、お腹が空いてきました。』
「リュックの中に食料が入っている。開けていくらでも食べろ。」
『はーい。』
シスターの奮闘はまだ終わりそうに無い。
後から聞いた情報だが、やはり今年もシロが優勝したらしい。
シスターとリリーは日は跨がなかったが、ゴールした頃には夜中になっていた。
「…シスター何やってんだ。」
「起こせないんだ。」
朝方には寝ているリリーにしがみつかれたままのシスターが教会の周りをウロウロしている所が目撃された。
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(リリー、俺これでも2位だったんだぜ!)
(そうなの?凄いねぇ。)
(何言ってんだよ!同着2位だろ!?)
(二人ともおめでとう〜凄い凄い。)
(リリーさん、まだ眠いんですか?)