小さな甘い幸せ




真冬から春にかけての季節。




2月14日。




その日は人によっては




争奪戦を繰り広げることになる。





『シスター、何作ってるんですか?』


朝の教会ではシスターが何かを鍋の中に入れていた。


「これか?これは…、今日という日に落胆する男達に渡すチョコだ。」


チラッと覗くと一口大のチョコがゴロゴロと入っていた。


『…こんなに必要なんですかね。』

「少なくとも、リクと星は必要だろうな。」

『ニノはくれないんですか?』

「バレンタインというもの自体、よく分かってないらしい。」

『あぁ…リクも可哀想に。でもシスターは絶対貰えますよ。ステラちゃん、張り切ってましたもん。』


昨日、教会の台所を借りて二人で作ったのだ。


「フッ、そうだな。」


そしてシスターは鍋を持って礼拝堂に出る。調度今日はミサのある日なのでほぼ全員集まっていた。


「よし。お前達!このチョコで今日を乗りきるように!」


そうしてシスターはチョコを配り始めた。


「…なんか、こう、惨めになってくる…」

「ニノさんは俺の恋人だったはずだけどな…」


早くも落胆している男達がいた。


「今日のミサはここまでだ!」


その声と同時にステラが走り出した。


「シスター!Happy Valentine day!!」


ステラの手の中にはハート型の大きなチョコ。


「あぁ、ありがとうステラ。」


シスターがステラの頭を撫でると、ステラは顔を綻ばせた。


「リリーに教えてもらったんデス!」

「そうだったのか。良かったな。」

「ハイ!」

『ふふ、シスター早速じゃないですか。私からも一応あるんですけどね。』

「!…リリーも作ったのか?」

『はい、日頃の感謝も込めて。どうぞ。』

「ありがとう、リリー。」


そう言って、今度はリリーの頭を撫でた。


『ステラちゃんにも、はい。』

「やった!リリーありがとうー!」











「ちょっ、何あの家族風景!」

「羨ましい!めっちゃ羨ましい!」

「ビリーさんとジャクリーンは相変わらずだが、村長ですらP子から配達でチョコ届いてたぞ。」

「うわ…、俺らの存在意義…」





「恋人に貰えないというのは厳しいでござるな。」


「わ!ラストサムライどっから……、…って、お前…、それ、……チョコ?」


ラストサムライが手に持っているのは可愛らしいラッピングをされたチョコ。


「さっきリリー殿に貰ったでござる。」

「「なんだって!?」」

「さっきリリー殿に貰ったでござる。」

「二度も言うな!」

「……何でお前が!!」

「それは…、」





『あれ、お取り込み中?』

「「いや、全然。」」


『そう?あ、はいこれ。リクと星に。』

「チョコ!?」

『うん。』

「俺にまで!?」

『リクの分も一応作ったんだけど…もしあれだったら捨てて。』

「いや、捨てませんよ!ありがとうございます!」

「ありがとな、リリー!」

『はい。どういたしまして。あと1個か。』


よく見ると周りの皆は同じ物を持っていた。


「これ全員分リリーさんが作ったんですか?」

『うん。でも簡単な物だからね。』

「さすが女の子、って感じするよな〜」

『照れるよ。』



「リリー、これ美味いな!」

『ほんと?嬉しい!』


貰ってからわずか数秒で食べきったニノ。


「ほんとだ。美味い。」

「俺、これで今年も乗りきれるわ。」


涙を浮かべながらチョコを食べるリクと星。


「なるほど、バレンタインは良いものだな。」

「ニノさん!分かってもらえたなら来年は…!」



「来年も楽しみにしているぞ!」

『うん!』



「……」



貰う側。





『じゃあ、私はこれで。』


そう言って教会から出ていこうとするリリー。


「あれっ、どこか行くんですか?」

『うん、残ったチョコ、マリアの分だから。』

「あぁ、なるほど。」


滅多なことでは絶対ミサに参加しないマリア。


「チョコありがとな!」

『はーい。』



そうしてリリーは牧場へと向かった。





コンコン
『マリアー』

「…あら、リリー。またどこかの変態かと思ったわ。」

『?よく分からないけど、とりあえずはいこれ。チョコ。』

「まぁ、そう言えば今日はバレンタインだったわね。ありがとうリリー。嬉しいわ。」

『喜んでもらえて何よりだよ。』

「ちょっと待っててね。」

『ん?うん。』



しばらくして、



「お礼になるか分からないけど、今朝鶏が卵を生んだからリリーにお裾分けよ。」

『わぁ!ありがとうマリア!』


卵の入ったカゴを受け取った。


「ふふ、こちらこそ。」


そして教会に帰って行った。




ーーーーーーーーーーー




「どうしたんだ、それ。」


皆は帰ったらしく、教会にはもうシスターとステラしか残っていなかった。


『チョコのお礼に、ってマリアから貰ったんです。』

「そうか…。マリアはとことんお前には甘いな。」

『優しいですよね。』

「そうだな。」



2月14日、今年のその日は誰も落胆する者はいなかった。




ーーーーー


(来年こそはニノさんからもチョコを…!)

(リリーがいる限りバレンタインは乗りきれるぜ!)


(あら、このチョコ美味しい。)

(来年もチョコの意味は感謝だけなのか…)

 

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