「なぁ星、その服って前にリリーさんが着てたのと似てるな。」
「だってリリーが着てたやつだからな。」
「は?」
「リリーが着てる服は俺のなんだよ。」
星の言葉にリクは一瞬目を見開くも、すぐにジトッとした目で星を見た。
「なんでだよ。また脱がせたいとかそういう類いか。」
「ちっげーよ、変態を見る目で俺を見るな。ほら、あいつん家…」
「ん?…あ、あぁ、そうか。服無いんだな。だからってなんでお前だ。」
「ニノはジャージだしP子のは小せぇし、マリアの服は…際どい、らしい。」
指折り数えていく星の脳内にはいつだったかリリーと会話した光景が思い出されていた。語尾が小さくなり言いづらそうにしているリリーの姿に星は真剣な顔で”可愛い”とだけ思っていた記憶がある。
「なるほど、だからリリーさん、いつも男物の服着てたのか。花屋も結構良い感じなのに新しい服買わないのかな。」
「店の金は店に使いたいんだとよ。」
「リリーさんらしいな。」
「おー…あ、噂をすれば、」
『あ、二人ともおはよう。』
二人の目線の先にはリュックを背負い、花束を持って歩くリリーの姿。
リクの後ろから近づくリリーに彼は振り向きにこやかに声をかける。
「配達ですか?」
『そうなの。今年はこれで終わりかな、雪積もってきたし。』
「頑張ってくださいね。」
『うん、ありがとう。』
「……リリー、」
静かにしていた星が恐る恐る小さな声を出した。
『なに?星。』
「…リュックしょってるって事は遠出すんのか…?」
『あ、うん。』
「どのくらいだ!?いつ帰ってくる!?」
『自転車使えないから…、…1ヶ月?』
「「1ヶ月!!」」
リクはその長期さに驚きの声を上げ、星はやはり…と思っていた分改めてショックを受けていた。
「ちょっ、リリーさん1ヶ月って、配達頼まないんですか!?」
『うーん、できるだけお金使いたくないしね。お花があるから行きはいろいろ交通機関使って急ぐかもだけど』
「い…1ヶ月…」
「そんな事したらボロボロになるじゃないですか!!」
『しょうがないよ。』
「リリーさん…」
「リ、リク、耳貸せ。」
「ど、どうした星。大丈夫か。」
顔に影を落とす星はふらつきながらもリクの肩に腕を回し、自分が経験した過去の恐ろしい話を切り出した。
「(リリーがいなくなったらな、鉄人兄弟は半狂乱になるし、マリアは真顔で虐めてくるし、ニノは単語でしか会話しなくなる。そしてシスターは…)」
ゴクリと自分の喉が鳴るのをリクは感じた。
「…自分で自分を撃とうとする」
「それ一番ヤバいじゃねーか!」
「帰ってこないリリーがもしかしたら事故にあっているかもしれないと思って、行かせた自分を責め続けるんだ…」
「だいぶ病んでるな」
「ちょうどお前が河川敷に来たのと、リリーが帰ってきたのが一緒だったから知らないんだろ。」
「……あぁ、あれか…」
皆がリリーに飛び付き下敷きにしていたのを思い出した。
『私シスターと村長には挨拶したからもう行くね。』
「もう!?」
星の顔は一気に青くなった。
『うん。できるだけ早いうちに届けないと。』
「待ってくれ―!!せめて俺だけでも連れて行ってくれ…!!」
「ま、待ってください!!」
『どうしたの?リク。』
「リリーさんの配達…、これからは俺がやります!!」
「はぁ!?」
『え!?』
冷や汗を一粒かいたリクが食い気味に声を張る。その内容をリリーも星も理解できずにただただ驚いていた。
「あ、いや、俺が、っていうか俺の会社の出荷に任せてください!」
『それは…どういう?』
「タダで配達を頼んでください!」
『良いの…?そんな事…』
「構いません。俺の役に立てるとなればあいつらは大喜びしますから。これ、電話番号です。」
やや自慢が入った言葉に星は半目になる。
『ありがとう…リク!凄く嬉しい!』
「はい、お安いご用です!」
「リクよくやった…!」
さっそくリリーはその電話番号に電話をして花束を届けに行ってもらった。
『ありがとう、リク。すごく助かっちゃった。』
「いえ。」
さすがに自殺未遂のシスターと、単語でしか話さないニノは嫌だった。
リリーが教会に戻ろうとした時、
「「リ、リリーさんがリュックしょってる…!!」」
鉄人兄弟に出くわした。
ーーーーーーーーーーー
「うわぁぁああん!リリーさん行かないでぇぇえ!!!!」
「また長くなるの嫌だよぉぉおお!!!!」
『だ、大丈夫だから…』
「雪合戦で僕たち星さんとリクさんに勝ったでしょ!?お願いはリリーさんがいてくれるだけで良いからーー!!」
「物なんていらないからー!!」
リュックを見て瞬時に遠征配達だと気付いた二人はびゃあああと泣きわめいてリリーに引っ付いて離れようとしない。
『あのね、リクが手伝ってくれたの。だからこれからはもう遠くには行かないよ。』
「ぅう、ほんと?」
仮面の中からズズッと鼻を啜る音が聞こえた。
『ほんと。それに今年は配達はもう無いしね。』
「来年になったらまた遠くに行かない…?」
『もう行かないよ。行かなくてよくなったの。』
リリーが二人の頭を撫でると、安心したように笑った。
「良かったぁ!!えへへ!リリーさん、また明日ね!」
「ばいばい!!」
『バイバイ』
やっと落ち着いて帰っていった鉄人兄弟たち。
それを一部始終見ていたリクと星は、
「半狂乱って、これか…」
「まだ半にもなってないぜ。5分の1くらいだ。」
「え」
と話し合っていた。
その時
「リリーが…リュックをしょってる…」
ニノが現れた。
その後は大変だった。また事情を話して、ニノを落ち着かせた後、さらにP子とマリアが通りかかったのだ。
ーーーーーーーーーーー
『疲れた…』
大きなリュックを背負い直して教会に帰った。
「リリー…?どうしたんだ。忘れ物か…?」
シスターは死んだような目で銃を磨いていた。
『リクが助けてくれたのでもう遠出はしないです!』
「…?」
そしてリリーは本日何度目か分からない説明をした。
「なるほど。リクもたまにはやるじゃないか。」
『凄く助かりましたよ。』
シスターはそれから1週間はずっとご機嫌で、誰にも銃を向けなかった。
ーーーーー
(リクルート)
(え?あ、シスター、どうしたんですか?)
(よくやった)
(え?はぁ…)