感謝を込めて


(シスター視線)




『あ、シスター、おはようございます。』


朝に起きるとリリーがいつもの腰エプロンをして朝食を作っていた。


「おはよう、早いな。」


これくらいの時間ならまだ寝ているのに。


『今日のご飯は私が作るって言ったじゃないですか。シスターは起きるの早いですからね。』

「そうだったな。何か手伝うことはないか?」

『大丈夫です。もう少しでできるんで待っててくださいね。』

「そうか、分かった。」


椅子に座って後ろから眺めていると、いろんな事に気付いた。

なかなか手際は良いようだし、良いにおいがしてくる。


それに



『なんだか新婚さんみたいじゃないですか?』





言われた。




ちょうどそう思った時に向こうから言われてしまった。


「今日限定のな。」


欲を言えばずっとそうあって欲しかったが。


『あ、できましたよ。』


目の前に出されたのはサラダや目玉焼きなどの朝らしい軽食。


『シスターが作る方が美味しいんですけどね。』

「そんな事はない。ありがとうリリー。」

『美味しくなかったら残してください。』

「そんなことはしない、いただきます。」


一口食べると全然美味しくない、みたいなベタな展開は起きなかった。


「すごく美味しいぞ。」

『ほんとですか?良かった…!』

「リリーも食べろ。」

『はい!』


素直な感想を言うと、リリーはものすごく喜んだ。

こういう瞬間が一番好きかもしれない。私もだいぶ気持ちが緩んでしまったようだ。




ーーーーーーーーーーー




「お、シスター。」


朝食を食べ終えて、教会の外を歩いていたら誰かに話しかけられた。


「村長」


振り向くとそこにいたのは村長だった。


「朝からご機嫌じゃねーか。リリーの手作り料理は旨かったか?」


そんなに腑抜けた顔をしていたのだろうか。


「はい。料理は得意みたいですよ。」

「そりゃ良かったな。」

「ええ」


そこで会話は止まり、次に口を開いたのは村長だった。


「あいつもここ最近じゃよく笑うようになったしな。」


言われてみればそうかもしれない。


「…村長はどうして、リリーをすぐに河川敷に受け入れたんですか?」

「それはシスターも分かってんじゃねーのか?」

「……」

「一番印象に残ってんのはー、そうだな、ニノとおんなじ瞳をしてた。って事くらいかな。」

「それは…」


自分でもそう思っていた。初めて彼女を見たとき、出会ったばかりのニノを思ったのだ。


「それにニノが河川敷以外の住民に話しかけて、ましてや住むことを勧めるなんて無かっただろ。」

「はい」

「だったらそんなニノのお願いを断るわけにもいかねーよな。」


そうだ、と私もひとつ頷く。ニノが連れて来た時点で彼女をすでに気にかけるようにはしていた。



私はリリーの気持ちを分かってあげた事はあっただろうか。



「ま、今が楽しいなら万々歳だ。俺は昼寝でもしてくるかな〜。じゃあな、シスター。」


片手をフラフラと振って村長は歩いて行った。




昼食はいらないだろう。
昼頃に散歩していると住人からいろんなものを貰うので、普段は昼食は用意しないのだ。




でも特にすることも無いので教会に戻った。現に今、戻る途中でニノから魚を貰った。




ーーーーーーーーーーー





「…?」


教会に入ると甘い香りが漂っている。


『…あれ?シスター!?もしかして昼食食べるんですか!?』


目を向けると、リリーが台所に立っていた。


「いや、足りている。」

『そうですか、良かった。昼食作ってないから焦りました。』

「何を作っているんだ?」


昼食ではないなら何を作っているのだろう。


『プリンですよ。さっきマリアに牛乳と卵を貰ったんです。』

「そうか、良かったな。」

『はい!』


頭を撫でると嬉しそうに笑った。




-数時間後-



『できた〜。やっぱり冷やすと時間かかりますね。』

「でもちょうど3時のおやつ時じゃないか?」

『あ、そうですね。良かった。どうぞシスター。』

「あぁ、いただきます。」


ちらっとこちらの様子を伺うリリー。そんな心配する必要は微塵も無いのだが。


「美味しいぞ。お菓子も作れるんだな。」

『シスターのクッキーには敵わないですけどね。高校からずっと独り暮らしだったんで一応料理は得意なんです。』

「?…両親は?」

『いないです』

「…すまない」

『良いんですよ、気にしないでください!これ、マリアにも持っていきますね。』


リリーはプリンを1つ持って教会を出ていった。



私はリリーの事をどれだけ知っているだろうか。





ーーーーーーーーーーー




『わー、寒かった!』

「お帰り」

『はい、ただいまです。もう晩ごはんの時間ですね!今作ります!』


鼻を真っ赤にさせながら台所へと向かったリリー。


「私も手伝う。」

『え?いや、良いですよ!いつも作ってもらってるんですから。シスターは休んでてください。』

「いや、手伝わせてくれ。」

『…もしかしてさっきの事、気にしてるんですか?』

「それもあるが、二人で料理をするのも楽しそうだと思ったのでな。嫌か?」

『…いえ、一緒に作りましょう。』




ーーーーーーーーーーー




「リリーは、」

『はい?』


二人で作業しながら質問をした。


「ここの生活には慣れたか?」

『もう一年以上ここに住んでますからね。だいぶ慣れましたよ。』

「そうか」



『それに、』

「ん?」

『前住んでた家より今の方が楽しいし、両親はいないですけど、ここにいると安心できるし、皆がお母さんとかお父さんみたいな感じがするんです。』


なんて、おかしいですよね。と笑うリリーの頭を包丁を持っていない方の手で撫でた。


「おかしくなんてない。そう言ってもらえるならここの奴らも喜ぶだろう。」

『私、一番に感謝してるのはシスターなんですよ。』

「私、か?」

『家もそうだし、料理とかもいろいろお世話になって、感謝しきれないくらいです。』

「私もリリーに感謝しきれない程だがな。」

『私、何かシスターにしてあげられた事ってありましたか?』

「あぁ。リリーに出会ってから楽しいと思う時間が増えた。」


こんなに人を愛しいと思う事も初めてだ。


「ありがとう、リリー」

『わ、私のほうこそ!シスターの事が大好きです!いつもありがとうございます!』

「最高の殺し文句だな。」

『はい?』

「いや、何でもない。それ焦がすぞ。」

『え、あ!!』



フライパンに向き合ったリリー。

異性としてじゃないという事は分かっているが、さすがに効いた。






いつか、違う意味で、





ーーーーー


(ちょっと焦げちゃいました…)

(まぁ、オムライスに見ようと思えば見える。)

(……もう)

 

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