好き嫌い




時はうつろい、荒川にも冬がやって来た。


雪は降らないが肌寒くなってきたそんななか、旅立つ少女が1人。





「リリー!私がいないうちにニノみたいに彼氏作らないでねー!!」

『大丈夫だよ、P子。安心して行ってきて。』



彼女、P子は毎年冬になると河川敷のために良い苗を探しに行くのだ。


「春までリリー達に会えないなんてー!!」

『私も寂しいよ』

「元気でな、P子。」

「帰ってくるのを楽しみにしてるわ。」

「皆…!」


「畑は任せろ、P子!」

「村長…!うん、私行ってくるね!また春に会いましょう!!」


『バイバイP子ー!いってらっしゃーい!』

「またね、皆!!」


そうしてP子はトラックに乗って長旅へと出かけた。




ーーーーーーーーーーー




「ん?リリーさん、なにやってるんですか?」


皆が散らばった後、リリーは1人その場に残っていた。


『あぁ、リク。畑の整備をしてるんだよ。』

「P子のですか?」

『うん。いつも私とニノでP子の畑を守ってるんだよ。』

「それなら、P子も安心ですね。」

『でも花とはちょっと違うからなかなか難しいけどね。』

「リリーさんなら大丈夫ですよ。」

『ふふ、そうかな。』




のどかな空気が流れる。が、この荒川河川敷ではそんな時間はそうも続かない。



「おいコラ、リクルート!!」

「あ?……なんだよ星、うるさいな。」


怒号をあげてこっちに向かってきた星。


「またリリーにちょっかいだしてんのか!この浮気男が!!」

「ちょっと会話してただけだろうが!」

『あ、これから配達あるんだった。』

「え、リリー配達行ってくんのか?また長くなるのか!?」

『今日は近所だからすぐ帰ってくるよ。』

「そっか…気を付けてな。」

「いってらっしゃい。」

『うん、ありがとう。』


リリーを見送った二人はふらふらと振り返していた手を降ろす。


「…お前ニノを落としたと思ったらこんどはリリーか。」

「違うわ!」

「ったく、ほんとムカつく野郎だぜ。」


そう言って星は煙草を取り出した。


「…そう言えばお前って最近あんま煙草吸ってないな。禁煙か?」

「お前がちょくちょくリリーと一緒にいるから俺が煙草吸ってんの見ないんだろ。」

「…意味がわからない。」

「だーかーら、俺はリリーの前では煙草吸わねぇようにしてんの。」

「まぁ、受動喫煙を考えるとリリーさんの体に悪いからな。だったら俺やニノさんの前でも吸うな。」

「んなのストレス溜まるだろうが!リリーは人一倍煙草嫌いなんだよ!」

「なんでだよ。」

「俺にもよくわかんねぇけど、3ヶ月位前にな…」



***********



「お、リリーじゃねぇか!」

『ん?あ、星……』ビクッ


「?どうした?」

『…煙草………』

「煙草?煙草がどうかしたか?」

『…私、煙草嫌い』


そう言ってリリーは走っていった。


「……えぇ!あ、ちょっおい!!」




***********




「そうして俺は2週間程閉じ籠った。」

「真顔で言われりゃキツいな。」

「泣きそうになるほど煙草嫌いって、なんでだろうな。」

「単にお前が嫌いだって遠回しに言ったんじゃないか?」

「んだと?」




「星、リリーが煙草嫌いな理由を知らないのか?」

「シスター!いつの間に…」

「今通りかかったんだ」


あまり大声で話していなかったはずなのに、どこから嗅ぎつけたのか背後からシスターが大きな影をつくった。


「それより、シスターはリリーさんが煙草嫌いな理由を知ってるんですか?」

「あぁ。リリーの家は放火にあったんだ。煙草のポイ捨てでな。」

「な!」

「そうだったのか…」

「それでこの河川敷に来るようになったんだ。星、もう二度とリリーの前で煙草を吸うなよ。」

「絶対吸わねぇ!!」


「(……やっぱりここの人たちは何かしら過去があるな)」




ーーーーーーーーーーー




『ふー、疲れた。まだ夕方かぁ。』

「あ、リリーさんお帰りなさい。」

『うん、ただいまーリク。』

「リリー帰って来たのか!」

『ただいま星。もしかして二人ともずっとここにいたの?』

「なにもすることなくて…」

「お疲れ様、リリー。」

『シスターもいたんですか。ただいまです。』




ーーーーー


(リクもさっきの話はなかった事にしてるな…)

(初めて心の中で意志が通じた…)

 

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