「お前は今日からリリーだ!」
家を失い今日から河川敷で住むことになった。新しい名前を貰い、ゼロからの新たな人生が始まる。…まあ正確に言えば財布とお金だけ少しあるからゼロではないけれど。
「まずは家を作らなきゃな。」
横にいたニノさんに淡々と言われた。
『い、家を作る!?それって1から建てるんですか!?』
「そうだ。見本に私の家、見に来い。」
そう言われてついていくと、その家の中は
『ビ…ビロード張り…』
私でも寝たことがないような豪勢なベッドが堂々とセンターに置かれていた。
「まあ、段ボールと布があればだいたい生きていける。」
『いや無理でしょう』
「でも1日で作るのは難しいからな。出来るまで教会にでも泊めてもらえ。」
『教会があるんですか?』
「あぁ、シスターが建てた教会だ。なかなか立派だぞ。」
シスターって修道女のシスターよね?
そんな人までホームレスなの!?
優しい人だといいけど…
「じゃあ行くぞ。」
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連れられて来た所は確かに素人が建てたにしては立派な教会。大きい建物に伴った大きい扉の前に到着した。
「ちなみに入るときはちゃんとノックしろ。」
『マナーですもんね』
「死ぬかもしれない」
『え?』
そんなに厳しい人なんだろうか、お姑さん的な方?こわい。一方ニノさんはなんのその、堂々とした振る舞いで扉をノックした。
こんこん「シスター」
ドキドキ ドキドキ
姑シスター…
ガチャ
ドキド…
「む…、ニノか。隣にいるのは誰だ?」
男性。
もはや姑でもなければシスターでもない。
『え…?』
「シスター。こいつはリリーだ。今日から河川敷で住むことになった。」
その後、ニノさんが住まいについてその大きいシスターに話してくれた。
「なるほど、それなら構わない。村長が名を付けニノが連れてくる奴なら心配もいらないだろう。…リリー、だったか?」
ビクッ!『え!は、はい!!』
「あまり緊張するな。家ができるまでこの教会に住むといい。」
「ひとまず一件落着だな。じゃあシスター、後は頼んだ。」
『え!ニノさんもう行っちゃうんですか!?』
「魚を捕りに行かなきゃいけないからな。」
また魚…?
じゃあな。と手を振って川の方へ消えてしまった
『ニノさ〜ん…』
その姿はまるで
(捨てられた子犬みたいだな…)
「リリー」
『はい…』
「まず中に入れ。夏でも夕方になると冷えるからな。」
シスターに連れられ、教会の中に来た。
(あ…中もそれなりに出来てる…)
少しだけ家を作るということに希望を持ち始めた。
「リリー」
『はいっ』
「私のことはニノから聞いているだろうが、一応自己紹介をしておく。私の名前はシスターだ。よろしくな。」
『は、はい。リリーです。よろしくお願いします。』
「ふむ…、あまり顔色が良くないな。そこのベッドで少し休め。いろんな事があって疲れたんだろう?」
ぽんぽんと頭を撫でられて、目を見開いた。
ここに来てからずっと気を張っていたから、初めて”安心”を少しだけ感じたから。
だいぶ昔に頭を撫でられた記憶がよみがえってきて、今までずっと我慢していたものが一気に溢れてきた。
普段人の前で泣いたりしないのに、涙が出てきた。
『っう…うぅ…、すみません…』
シスターにばれないように必死に声を押し殺したけど、意味はなくて。私が泣いている間、シスターは何も言わずにずっと頭を撫でていてくれた。
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泣き止んで、しばらくしてからシスターがそっと口を開いてきた。
「リリー、甘いものは好きか?」
『甘いもの…ですか?はい、好きです。』
ちょっと待ってろ、と言ってシスターはどこかへ言ってしまった。今日初めて会った人前でえらく泣いてしまった、と今になって顔が熱くなった。
ちょっとしてシスターが戻ると、右手に袋を持ってやって来た。
「私が焼いたクッキーなんだが、良かったら食べるか?」
差し出された袋を開けると、中に入ってるいたのは可愛らしいクッキー。
『…食べて良いんですか?』
「あぁ」
そのクッキーを1つ食べてみると、それはとても
『おいしい』
「そうか、良かった。」
心からそう思った事が自然に口から出ると、シスターは嬉しそうに微笑んでくれた。
『シスター、ありがとうございます。』
心の底から笑顔が溢れた。
シスターは私が笑顔を向けたことに少し驚いたようだが、また微笑んでくれた。
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(シスターってお菓子作り得意なんだ…。見た目と違ってちょっと可愛い人かも…)