なんてこった。
成人式を終えて早二年。
実家の花屋を継いで就活問題もクリア。
花に囲まれながら店番をして、スマイル0円。
そこまでが私の日常だった。
いつものように店番を終え、花の配達。
肩まである髪を後ろで結んで自転車にまたがって、いってきます。
と、そこまでは良かったのに。
家に帰ると、
『…』
というか、家らしき場所に帰ると、そこは
『…え?火の海…、……え!?』
真っ赤だった
花も家具も全部。
『嘘ーーーッ!!』
ーーーーーーーーーーー
警察の話によるとタバコのポイ捨てだったらしい。
先程の配達から帰って、いま私の持ち物は携帯とお財布(中身65000円)と自転車、そして真っ黒の家。
警察に大丈夫かと今後の生活について聞かれたが、『大丈夫です。実家に帰ります。』と言った。
もちろん嘘に決まってて、両親はとっくに他界している。両親が守ってきたあの店をずっと続けていたのに。
『これからどうしよう…』
自転車は焦げた家の前に置いてきて、今は道なりに歩いていた。
でも配達帰りでお金をある程度持っていたのは良かった。まぁそれもいつ尽きるか…
あれ…
ふと下を見ると金髪の女の子が橋に腰掛けてその下の荒川に釣り糸を垂らしていた。
『…あの〜、もしもし?こんな所で釣りなんてしたら危ないですよ?』
「ん?」
こっちを見た子は綺麗な青い瞳をしていて、思わず見入ってしまった。が、外国の方…?
「私なら心配いらない。慣れている。」
慣れてるんだ…
「お前は何をしているんだ?」
『あ、私はちょっと…家が無くなっちゃって…』
こんなこと平和に釣りをしている美少女に絶対ポロっと言うことじゃない…。…でもせめて口に出して吐き出さないと現実を受け止められなくて暴れてしまいそうだった。
「何だって?住むところは見つかったのか?」
『いや、今考えてて。』
「だったら橋の下で暮らすと良い。」
『…橋の下?』
「あぁ、皆橋の下に家があるんだ。お前も来い。きっと気に入るぞ。」
嗚呼、お父さんお母さん。私はついにホームレスになりました。
「着いて来い」
『えっ、あ、ちょっと待って!』
女の子に連れられて河川敷に来ると、確かによく見ると人が住めそうなモノが所々にあった。
『あの〜、どこに行くんですか?』
「村長の所だ。」
村?ここは村なの?
ていうか、こういう所にもちゃんと仕切る人はいるんだ。受け入れてもらえるかな、………って私もうここで暮らす気になってる…我ながら…。
ピチャピチャ
すると突然目の前の子は足下の川に向かって、鯉でも呼ぶかのように指先で水を跳ねていた。
『…何をやって、』
「どうしたー、ニノ」
『うわあぁぁあ!!』
え…この人が村長…?違う、人じゃない。
だって緑なんだもの。
皿が乗っかてるんだもの。
こ、これは…
『…かっぱ?』
「村長、今日からコイツここに住むんだ。」
なぜか勝手に私の住居が決定されているのだが。
「ふーん、そっか。俺は村長。ここの河川敷を仕切る河童だ!」
やっぱり河童なんですね。
脳が大混乱を起こしている。1日に詰め込んで良いキャパじゃないよ…。若干遠い目をしているとその村長は私を見てから顎を触りながら空を見上げた。
「じゃあ名前は…」
『あ、私は苗字名前で 「違う!」 えぇ…』
「ここでは俺が名前をつけるんだ。荒川で、新しい自分になるんだよ!」
新しい自分…
人権もへったくれも無いが、そう言われれば言い返せなかった。目の前で親指を上げる村長を見つめた。
「どーしよっかなー」
村長が私の名前を考えてる間に隣の彼女と散歩がてら色々話すことにした。
「私の名前はニノだ」
『ニノさん、ですか。』
「あぁ。ところでそれはなんだ?」
彼女、ニノさんが指差したのは私の腰に巻いているエプロン。
私の格好はジーパンにTシャツにスニーカー、それに花の刺繍が入ったお気に入りの腰エプロンだ。
あまり女の子らしい格好では無い。
『あぁこれは家が花屋で、店番の時にいつも着けてたんです。……あ』
ーーーーーーーーーーー
「どーしよっかなー」
「村長まだ決まらないのか?」
村長の所に戻るとまだ名前が決まっていないらしく、首をひねっていた。
「コイツ花屋をやっていたそうだ。」
「そうなのか?うーん、じゃあ…和名で花子とか?『却下で』別に良いと思うんだけどな〜。…ん?ニノ、それ何持ってんだ?」
ニノさんの手の中にあるのは白い花。
「さっきそこに生えていたんだ。レインリリーという花らしい。コイツが名前を教えてくれた。」
さっきニノさんと話している時に橋の近くに生えているのを見つけたのだ。
「村長にもひとつやる。」
『一輪って数えるんですよ。』
「おー、ありがとよニノ。綺麗だな。」
『間違って食べないでくださいね。痙攣しますよ。』
そう言うと村長は無言で花を河岸に置いた。
「よし!決めたぞお前の名前!!」
『わ、いきなり。』
「お前は今日からリリーだ!!」
「おぉ、良いじゃないか。良い名だ。」
『リリーってレインリリーから…?』
毒のある花だが、花子よりはまだマシだった。『リリー』ここでの私の名前。ニノさんが握手の手を差し伸べてくれた。表情は変わらないけれど歓迎してくれるようだ。
「よろしくな、リリー。」
『…はい』
ーーーーー
(初めてできた河川敷の友達がニノさんで良かった…。魚釣りしてたけど他は普通の子…
(ちなみに私は金星人だ。金星のことなら何でも聞け。)
電波だった)