私が河川敷に来て、もう1年もたった。
花屋は河川敷の皆以外にも知られて、常連だった人とは今もやり取りをしている。
ただ、お金が無いから配達は自転車で。
けして近くはない距離を往復しなければならない。できるだけ持ち金を減らしたくないので、運送は頼まないのだ。
『(今回は…、ちょっと長くなりそう…)』
途中で宿を借りないと。食べ物はクッキーと魚でなんとか保って、…往復だと1週間以上はかかりそうだな…。
『シスター、今回はいつもより長くなるかもしれません。』
「…どれくらいだ?」
『1週間は普通にかかると思います。』
「そうか…無事に帰ってこい。」
『はい!』
そう言って、花と他に必要なものを鞄につめて自転車にまたがり、目的地へと向かった。自転車は焼けた家からお店の裏に移動したのだ。
「ん?リリー、配達か?」
『星!』
途中で星に出会った。
『そうだよ。今回はちょっと遠いんだけどね。』
「そっか…気を付けて行ってこいよ!」
『うん、ありがとう!行ってきます!』
「(新婚みてぇな会話…///)」
1人赤くなる星。
ただし男女の立場が逆である。
「寂しくなるな…ま、長くても1週間かな。我慢だ、我慢。」
ーーーーーーーーーーー
花を届けに行った名前。だが、その距離は思いのほか長かった。できるだけ新品なうちに届けようと、行きは猛スピードで進む。
こまめに水を換えたりしていたので、花に支障は無いまま4日で届けることができた。
その分、普段あまり運動をしない名前の脚は
『もうなにもできない。』
限界まで達していたのだ。
宿で1日休んで、ちょっと進んでまた泊まる事になった。
1週間はとっくに過ぎて、そろそろ2週間が経とうとしている。
『今日は進まないで1日中休んでいよう。』
荒川まであと少しの距離で、最後の休息をとった。
-次の日-
『脚軽い!!』
すっかり筋肉痛から立ち直った名前は散歩ペースでゆったりと荒川に向かった。
ーーーーーーーーーーー
『やっとついた〜久しぶりだ〜。』
遠くで兄弟たちが遊んでいる声が聞こえる。
一歩、河川敷の方へ踏み出して
『皆ただいま〜』
2週間越しのあいさつ。
バッ
鉄人兄弟が一斉に振り向いた。
「リリーさん…?」
リリーだよ。
「リリーさんだー!リリーさんが帰ってきたー!!」
「リリーさーん!!」
勢いよく突進して抱きついてきた鉄人兄弟。
『(あぁ、2週間振りの人の温もり…)二人とも久しぶりだね。』
なごんで、頭を撫でたら嬉しそうに笑ってくれた。
「リリー…?本当にリリーか!?」
ん?と思って声の方を見ると
『星!久しぶり!』
懐かしの星。
あれ、隣にいるの誰だろう?
初めて見た黒髪の少年。って言っても年は同じくらいに見える。
「〜っ、リリー!!」
『わっ』
油断してたら星に思いっきり抱きしめられた。鉄人兄弟とは違う温もり。でも星はちょっと恥ずかしい、けど嬉しかった。
「リリー!!」
「きゃー!リリー!!」
『ニノ!P子!』
女の子友達のニノとP子が、これまた同じように猛スピードで突進してきた。
『久しぶり〜!』
今度はこっちからも抱きしめ返した。女の子同士のじゃれあいに巻き込まれた男が1人。
「(まっ、前からも後ろからも良いにおいがする…!!////)」
リリーとニノの間に挟まれ、おまけに二人が抱きしめあってるので、必然的に星も抱きしめられている。
「(俺…、今年一番の幸せだ…)」
星は1人幸せを噛み締めたのだった。
そんなことも起きながら、リリーはだんだん埋もれていった。
「なんの騒ぎだ?」
『(この声は!)』
「あいつらは何をしているんだ…?」
『あ、シスター!』
「!その声…。」
必死に人の山から抜け出した。
『シスター!今帰ってきました!』
「リリー…」
『よいしょ…、シスター、ただいまです。』
完全に出てきて改めてシスターの前で言った。
「…事故でも起こしたかと思って心配したぞ…」
『どこも怪我なんてしてないですよ。ちょっと届け先が遠かったんです。自転車じゃ大変ですね。』
まさか筋肉痛に悩まされるなんて。
「リリー、おかえり。」
そう思っていると、優しく抱きしめられた。
『ふふ、やっぱりシスターは寂しがり屋ですね。(本当に子供みたい…)』
そして、気になる事を言った。
『そう言えば、知らない人がいますね。』
黒髪の少年。彼はいったい誰なんだろう?
「あぁ、リリーが出発して3日後に来たんだ。」
『あ、ちょうど会わなかったんだ。』
「リリー、こいつはリクルート。私の恋人だ。」
『え…?』
ニノの恋人?
「ニ、ニノさん…!そんな軽く…!」
まさか、あんな恋に興味なんて全く持っていなかったニノが…。
『ニノすごい!ついに恋人ができたなんて!リクルート君だね?ニノをよろしくね。』
「え?あっ、は、はい!!」
笑顔で言うと、何故か希望を見つけたようなキラキラした目で見られた。
「オイ!リク!リリーの事じろじろと見んな!!」
「お前はいちいちうるさいな!別にリリーさんはお前のじゃないだろ!」
「う、うっせ!テメェにはニノがいるだろーが!!」
『あはは』
いつもの明るい場所に戻って来た。
「お、リリー帰ってきたか。」
『あ、村長。はい、今帰ってきました。』
どこからかやってきた村長。
「おう!んじゃあ、お祝いでもするか!P子!酒あるか?」
「う、うん!今持ってくるね!!////」
P子がつくる料理も久しぶり、村長と会話した時の幸せそうな顔を見るのも久しぶりだ。
「よし、皆!リリーが無事に帰ってきたらことだし、お祝いだ!!」
『村長、お酒飲みたいだけじゃないですか?』
この当たり前みたいな風景も、2週間見ないだけでこんなに愛しく感じる。
「リリー、おかえり!」
『ただいま!』
この場所が大好き。
ーーーーー
(星、貴様さっきリリーに抱きついていなかったか…?)
(え!?だ、だって、皆だってシスターだって抱きついてただろ!?住人として皆みたいにリリーを迎えただけだ!!)
(確かにそうだが…)
(シスターが押し黙った…)
(リリーに会えた喜びで凶暴さが押さえられてんだ!)