河川敷に新しい花を




リリーが河川敷に来てから1年。



また新しい住人が増えた。




(リク視点)



【他人に借りを作るべからず】

その家訓を胸とネクタイに刻んで22年生きてきた。


それをまさかあんな所で破るなんて。





「(なんでだ)」


エキセントリックな子供たちによってズボンを剥ぎ取られ、橋の上に引っかけられてしまった。


どうせ誰もいない…「おい」


いた…


俺は幼少の頃から他人に借りを作らないことと、他人に借りを作ると持病の喘息が出ることをご丁寧に伝えてやり手伝いをお断りした。


のだが、


そこからはあっけなかった。

プライドを一時無にしてパンイチの姿でズボンを取ろうとして失敗し、下の川に落ちて死ぬ直前だった。


深い川に沈み冷たい水を肌で感じる。その時急に何かに引っ張られ、体が浮上していく。



そして気付けば



「借り、作らしちゃったぜ。」


彼女は命の恩人となった。







「私は金星人だぞ」


電波だし。


「か、借りを返させてくださ、げほっ、ごほっ。」


あまりにもヘビーな借りだ。喘息が胸と喉を痛めつける。



「じゃあ…」


そうだ。家とか、金とか、いくらでもある…が、この重すぎる借りの対価となる物はいったい……


「私に





恋をさせてくれないか」

















「は!?」





そして俺は今日からこの人の恋人になった。





ーーーーーーーーーーーーーーー





「お前の家ここな」
「死ぬ!!」


案内された家は地上から10mはあった。頭上で普通に車が通行する、先程俺が落っこちた橋の下だ。


「それじゃあ、村長にあいさつしに行くぞ。」


村長?
長(おさ)?
長(おさ)がいるのか?
このホームがレスの場所に?


そして着いていった矛先ではニノさんが川の水面を指でちゃぷちゃぷと遊ばせる光景。



「ニノ、呼んだか?」


村長、


「緑色だァァーーー!!河童、つーか首の肌色見えてるよ!」



河童の着ぐるみを着た男が目の前に現れた。だから首もチャックも見えてんだって。


皆電波だ




ーーーーーーーーーーーーーーー





「名前は何にしようかな〜」

「は?何がですか。」

「ここでは俺が名前をつけ直さねーと暮らせないんだよ!」

「ちなみに私はニノだ」


彼女、ニノさんの方を見るとジャージの胸あたりに2-3という文字がある。

よくある学校の指定ジャージの名札に見えるが、まさかこれで安直に決めたのではなかろうか。



俺は下唇を噛む。

…新しい土地では順応力が大事だ。




「…分かりました、つけてください。」


「よし、そうだな……お前は、リクルートだ!!」


「いい名だ」

「ちょ、待ってください。他に候補はないんですか!?和名とか!!」

「うーん、じゃあ花子とか?」

「何でですか!?それはどこから!?」

「お前が来る1つ前に来た住人のもう1つの候補だったんだ。リリーの奴、なんで断ったんだろうな…」


そりゃ断るわ。雑か。



「リクルートでお願いします」



俺は今日からリクルート。




ーーーーーーーーーーーーーーーー




「せめて死ぬ確率の低い家を作ります。」

「そうか、全員呼ばなくても大丈夫か?」

「全員が何人なのかは分かりませんが、俺1人で大丈夫です。」


これ以上借りなんて作れない。






-それから数時間後-



ここで生きていく準備が整った。
家具も揃え壁も作ったそこはなんだか俺だけの秘密基地、のようで少し胸が高鳴る。

そしてニノさんが遊びに来て、二人きり…




よく見ればニノさんって、可愛い。




この人が俺の恋人…


「げっほ!ごほっ!」


むせた。





それから結構、毎日ニノさんと一緒にいるけど、凄く、いい人だ。

今はドラム缶風呂なるものに入っている。



「って、な、何をしてるんですか!」


真後ろに立たれたかと思うと、いきなり髪を洗われた。クレンザーで。


俺の頭は学校のシンクか……


キューティクルが死滅していく音を感じた。
でも、その手の温かさに






泣けてきた





「リク、これは私が洗いたいから洗ったんだ。借りだなんて思わなくて良い。」



「…」





また、泣いた。




ーーーーーーーーーーー



また日にちが経って、暖かい日。1人で散策をしている途中で後ろから


「捜したぞ、リクルートだね。」

「ど、どちら様で!?」

「話は後だ。お前の歓迎会をするぞ。着いてこい。」





だんだんにぎやかな声が聞こえてきた。


「皆良いやつらばかりだ。仲良くやっていこうな。」


いい人だ!!


河童と電波の次の人だからなおさらオアシスに感じる。








なんだあの星頭とウルトラマンもどき…



遠くにいる黄色い頭と鉄の頭。
否が応でも視界に入ってしまった。あれには極力関わりたくない。



「お、リク!」

「河童、ニノさん!」

「シロご苦労なー」

「シロ!?なんでこの人シロなんだ!犬か!!」

「あぁ、それは俺が白線の上しか歩かないからだよ。出たら妻が白色コーニッシュになるから…」



ああ、この人もそういう人……だから石灰で白線引きながら歩いてたんだな…。

俺は自分の足元にも乱舞している草をかき分けて引かれた白線に目を向けた。




「じゃあ自己紹介だ、リク!」

「…はい」



住人たちの目の前に立たされ、顔を上げる。
俺はこいつらとは違う!



「皆さん初めまして…。
市ノ宮カンパニーの御曹司で且つ次期社長のT大現役合格、市ノ宮行です。皆様ご承知の通り、

ゴッ

ぎゃっ!」


生まれながらにしての勝ち組である俺の紹介を始めて数秒で横から打撃を受ける。
いきなり河童に飛び蹴りをされた。



「なにすんだこの野郎…」


「リクルート、お前自信の話を聞かせてほしいんだ。」

「ニノさん…」



(ニノちゃん可愛いな〜)

(あぁ…今日も可愛いぜ…でもリリーも…な…)

(リリーさん今日もいないの?)

(つまんない〜)






「言い直します…。俺はリクルート。






ニノさんの





恋人です…」






「あ゛ぁ…?」


なんだあのマスクどもは。





「に、ニノ…それ本当…?」

「本当」

「「何でだー!!」」



「お、お前一体ニノに何した!!」


ワーワーギャーギャー

騒ぎ立てるマスクメン。


「お前なんてニノの魚の餌にされてその上リリーの花の肥やしにされちまえ!!」

「リリーって誰だよ。」


これ以上の電波は勘弁してくれ。




そうして、一発芸をする事になりそうになったり、いろんな事があった。



ーーーーー


(やっぱりリリーさんいないとつまらないよー!)

(それは俺も一緒だ!!)

(リリーさん仕事忙しいのかなぁ…)

(帰ってきたら抱きしめて貰おう!)
(そうだね!)

(羨ましいな!お前ら!!)

 

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