◎ サンドイッチ・トラップ
「星…貴様ふざけるなよ…」
「お、俺のせいにするなよ!」
今日も荒川は賑やかで、晴天の下でシスターと星の声が綺麗に響き渡った。喧嘩でもしているのかと思うその声は少し焦りを含んでいる。
比較的近くにいた散髪をし終えたリクと休憩中のラストサムライは顔を見合わせて声の元へと向かった。
「リク殿、あの穴から反響しているでござる」
「あ、ほんとだ。ていうかなんだあの落とし穴」
ラストサムライが指を指す場所にはギリギリ二人が入っていられる程度の落とし穴。そこを覗いたリクとラストサムライは声の主が焦っていた理由にあぁ、と頷いた。
「なるほど、名前殿がいたでござるか」
ギャンギャン騒ぐ星とシスターの間には名前の姿があった。
背中に星を、目の前にはシスターを、体格の良い両者に挟まれた名前は身動きひとつ出来ないでいた。
『…っ、本当にごめんね、私が巻き込んだばっかりに…』
「あぁあ、気にすんな名前。」
「そうだ名前、私と話しているところに割り込んできた星が悪い。お前は関係無い。」
「な、なんで俺まで悪いんだよ!!元はと言えばシスターがこんなところにトラップの落とし穴を仕掛けなければ良かったんだろ!?」
「私は河川敷の安寧を維持するためにトラップを仕掛けているんだぞ。何よりどこにあるかなどは周知済みだ。貴様が私たちの邪魔をしてきたので名前が驚いてしまったんだろう」
ラストサムライが隣のリクを見るとやれやれ、と言ったようにかぶりを振って去って行く。ラストサムライもそれに習いその場を後にした。
「名前、どっか怪我してないか?」
『してないよ…二人は?』
「俺は何ともない」
「私もこれくらい戦時中と比べればなんてことは無い」
規模が大きいよ…と名前はなんとも言えない気持ちになるがシスターの身長よりも深く掘ってある穴の天井を見上げた。
その姿勢からか名前は多少バランスを崩し、後ろの星が手を添えて支える。
『どうしよう…』
「名前も足場が不安定ではつらいだろう。私に掴まっているといい。」
シスターは柔らかい土の足場から名前を浮かせ自らの胸に抱きとめた。
「あ、おいシスター!」
『え…、あ、ありがとうシスター…』
名前は少しためらった後、シスターの首に腕を回そうとした
『きゃあああ!!』
「!?」
が、その瞬間腕はバッと下げられ、シスターは目を見開いて驚いた。
『ほ、星っやめ…っ、くすぐったい!』
後ろから回された星の手は名前の脇腹に置かれ、もぞもぞと動いている。
「おい何をしているんだ貴様」
「へっ、シスター、名前の気を引いて手籠にしようたってそうはいかねぇぞ…!」
『その言い方やめて…!!』
狭い穴の中で身動きが取りづらい中の必死の抵抗をしても星の手は止まらなかった。
目の前直前にある涙目の名前を前にシスターは抱きとめた腕を離しそうになるもなんとか我慢し、もう一度自分のもとに引き寄せて星を睨みつけた。
「嫌がっているのが分からないのか?」
目のやり場に困りながらもシスターは星を咎める。
『星…っ』
「おい、聞いているのか星、」
そこでシスターが再度名前を抱きかかえようと腰にまわした手をずらした瞬間、また名前の体が跳ねた。
『ひゃ…!!ぁ…やっ、シスター…!』
その様子にシスターはピタリと固まり沈黙がしばらく続いたが、目の座ったシスターは手を動かし自分にしがみつく名前の腰を撫で回した。
名前の後ろから回る星の手は未だ体のラインに沿ってくびれをなぞっている。
『やだ、やだっ、二人ともやめて…っ』
頬と首元に顔を寄せた二人の手が段々上に上がって行き、襟を開こうとしたその時
『…ぅ、…ひっぐ』
「「!!」」
顔を真っ赤にした名前がついには泣き出してしまった。
「わっ、名前、名前ごめんつい!!」
「すまなかった…!な、泣くな!」
『うぅ…っ』
星とシスターが必死に泣き止ませようと試行錯誤していると上に影がかかり、そこから伸びた腕は名前の手を掴むとグッと一気に引っ張り上げた。
『ラ…ラストサムライ…』
「まったく…いつまでも出てこないと思えば一体何をやってるでござるか…」
ラストサムライが持っていた手ぬぐいで土埃の付いた名前の顔を拭いていると穴の中のシスターも鉤縄を使って上に出た。
『出れるなら最初から出てよ…!』
「「お前が可愛かったから」」
二人はその後しばらくラストサムライからお説教を食らった。
サンドイッチ・トラップ(シスター!俺は知ってるんだぜ。あんたが紳士ぶっといて結局はムッツリなことをな!さっきも名前のことベタベタ触りやがって!!!)
(仕方がないだろう名前が可愛いのだから!!)
(それに異論は無い!!!)
(そんな大声でやめて!!)
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