◎ 寒い日の手の居場所
『寒い……』
息をはいて、両手を擦り合わせる。セーターにコートにマフラー。こんなに重ね着をしているのに体の震えは止まってくれない。
それなのにあの男は、
『シスター寒くないの?』
いつもの修道服に、熊の毛皮を羽織っただけのシスター。
「私も寒くは思うが。」
『嘘だ』
私の鼻は真っ赤になっているにも関わらず、彼の顔は全く色を変えていない。
「私は嘘はつかないぞ」
『だったらなんでそんな平気そうなの…』
両手を腕に当てて擦る。
「そんなに寒いのか…?」
『寒い。……あ』
ひらめいて、両手を腕から離した。
そして、
「!」
『あったかい…!!』
シスターのほっぺたを包んだ。
「いきなり何をするんだ。」
『嫌なら振り払ってどうぞ』
「……そんな事を言われても出来るわけ無いだろ」
『ふふ。はぁ〜、あったかい。』
「……」
すると、シスターは自分の手をゆっくりと上にあげて、
『…!うわっ、』
両手で名前の頬を包んだ。
『シスター、手も温かいんだね…!』
お互い両手を相手の顔にくっつけているので、外から見たら、
「何あいつらイチャイチャしてんの。」
「ほっとくでござる。」
となるのだった。
『雪山で遭難したら一番にシスターを呼ぶよ。』
「そうか。まぁ、お前は1人だと危機感が無いからな。」
『そんなこと無いよ』
「十分ある。例えば…そうだな、…このまま顔を近付けたらどうなると思う?」
『え…?
……あっ、え?あ、危ないね!非常に危ないね!!うん!!』
手をシスターの肩に当てて引き剥がそうとするも、ビクともしない。
「でもまだ、そこまで危なくは無い。」
『飢えてるな、この男!』
「嫌なら振り払えば良いだろう?」
シスターは確信犯のように笑った。
『っこの〜!』
結局振り払えなかった自分を、【温かくなりたかったから】という理由で正当化した。
「ほらな」
『……』
寒い日の手の居場所(ん?顔は赤いままだな。まだ寒いか?)
(…分かってて言ってるでしょ…!!)
(ははは)
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