短編 | ナノ

 寒い日の手の居場所

『寒い……』


息をはいて、両手を擦り合わせる。セーターにコートにマフラー。こんなに重ね着をしているのに体の震えは止まってくれない。

それなのにあの男は、


『シスター寒くないの?』


いつもの修道服に、熊の毛皮を羽織っただけのシスター。


「私も寒くは思うが。」

『嘘だ』


私の鼻は真っ赤になっているにも関わらず、彼の顔は全く色を変えていない。


「私は嘘はつかないぞ」

『だったらなんでそんな平気そうなの…』


両手を腕に当てて擦る。


「そんなに寒いのか…?」

『寒い。……あ』


ひらめいて、両手を腕から離した。
そして、


「!」

『あったかい…!!』


シスターのほっぺたを包んだ。


「いきなり何をするんだ。」

『嫌なら振り払ってどうぞ』

「……そんな事を言われても出来るわけ無いだろ」

『ふふ。はぁ〜、あったかい。』

「……」


すると、シスターは自分の手をゆっくりと上にあげて、


『…!うわっ、』


両手で名前の頬を包んだ。


『シスター、手も温かいんだね…!』


お互い両手を相手の顔にくっつけているので、外から見たら、


「何あいつらイチャイチャしてんの。」

「ほっとくでござる。」


となるのだった。



『雪山で遭難したら一番にシスターを呼ぶよ。』

「そうか。まぁ、お前は1人だと危機感が無いからな。」

『そんなこと無いよ』

「十分ある。例えば…そうだな、…このまま顔を近付けたらどうなると思う?」

『え…?
……あっ、え?あ、危ないね!非常に危ないね!!うん!!』


手をシスターの肩に当てて引き剥がそうとするも、ビクともしない。


「でもまだ、そこまで危なくは無い。」

『飢えてるな、この男!』

「嫌なら振り払えば良いだろう?」


シスターは確信犯のように笑った。


『っこの〜!』



結局振り払えなかった自分を、【温かくなりたかったから】という理由で正当化した。


「ほらな」

『……』




寒い日の手の居場所


(ん?顔は赤いままだな。まだ寒いか?)
(…分かってて言ってるでしょ…!!)
(ははは)
 
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