3日目




いつもは足を踏み入れた瞬間に目に入ってくる河川敷の住人も、今日はなぜかガラリとしていた。




今日は日曜日。






―――――――――――――






特に支障はないが、いつものにぎやかな声が聞こえないと心配になってしまう。


『ついに警察にでも見つかったんだろうか…。………ハッ、社長は…!?』


名前は駆け足であの高台に行った。
しかし、


『社長までいない……。』


いったいどうしたものか名前は最後の頼み、"教会"へと向かった。






―――――――――――――






教会に向かう足はあと数mというところで止まった。

誰よりも飛び抜けた背丈で、頭がはっきり見えるあの男の人はシスターさんだろう。
そしてその周りに群がる人、人、人。


『なんて濃いメンツ……。』


目を凝らすと星さんがいて、周りには同じように被り物をしている人達がちらほら。
あんなに目立つ人達がこの河川敷にいたなんて、と心の中で思った。

その時、少し離れたところで一人たたずんでいる社長を見つけた。



『社長おはようございます。』

「ん?あぁ、名字!おはよう。今日もご苦労だな。(俺の嘘を真剣に考えさせてすまない……!)」

『あれはなんですか…?』

「あぁ、あれはシスターの、シスター分かるか?」

『はい、昨日お会いしました。』

「シスターのクッキーをもらってるんだ。日曜日の朝は教会でミサをやると決まっているからな。」

『なるほど…。社長が群がらないのも分かりました。』


社長のネクタイに刺繍された文字【他人に借りをつくるべからず】が家訓にあるので、社長が人から物をもらうわけ無いのだ。


「ニノさんがあのクッキー大好きなんだ。」


もう一度人の群れを見るとだいぶいなくなり、ほとんど見知った顔が残った。


「リクももらえばいいのにな…、おぉ、お前は確か…」

『名字です。』

「そうだった、おはよう。お前もクッキーもらってきたらどうだ?」

『いえ私は…』


クッキーをむさぼるニノ様と会話をしていると例のごとくあの男が割り込んできた。


「名前じゃねーか!おはよう!!」

『おはようございま…「星!!お前ちょくちょく名字に迷惑かけてるみたいだな!!」…す。』

「お前に話しかけてんじゃねーよクソエリート!!名前は迷惑じゃないって言ってる。」

「名字どうなんだ?」

『迷惑ですね。』

「そんな!!」

「ほら見ろ。分かったらこれ以上名字に嫌がらせするなよ。」

「嫌がらせじゃねえ愛だ、愛!!名前、どうしたら分かってくれるんだ?」

『朝9時、天気は良好。風向きは南東寄り…』

「無視!」

「はっはっはっ!名字はお前なんか見向きもしないんだよ!」

「な、クッキーやるから付き合って。」

『結構です。』

「名前の分のクッキーならここにあるぞ。」

「シスター邪魔しないで!」


『いえ、結構です。』

「まぁ、そういうな。」

「シスターのクッキー美味いぞ!」


ニノ様にまで言われたならば


『じゃあ…、すみません。ありがとうございます。』


受け取った袋に入っているクッキーは男の人が作ったにしては可愛らしかった。


「俺のは受け取ってくれなかったのに…!もしやシスターも名前を狙ってるとか…!!」

「ほざけ」


「名字、もう帰った方がいい。ここには河童とか変なのがいっぱいいるから気を付けて帰るんだぞ。」

『はい、では社長、ニノ様、シスターさん、さようなら。』

「俺は?」

「じゃあな!」

「またな。」


「名前、俺は!?」

『……さよなら。』

「!
あぁ、またな!気を付けて帰れよ!送ってくか?」

『いりません。』

「シスター、名前が俺に手を振り返してくれたぞ。」

「分かったからまばたきくらいしろ。」


「(名字が危険だ…。いつのまにかシスターとも知り合ってるし…、誰か保護者を名字につけないと…!)」

「リク帰るぞ。」




(シスター、どうしたら名前が喜んでくれるかな。)

(お前が近付かない事じゃないか?)




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