シスターの妹とリクルート
教会のシスターと言えば、あの屈強なシスターもどきの男が一人。
しかし今では本物のシスターがいるのだった。
『おはよう、リク』
「名前さんおはようございます。やっぱり良いですね、教会に入ってちゃんとした女性のシスターがいるというのは。」
ぼんやりと首を傾げる名前の前でリクはうんうん、と頷く。
『お兄様には、まだまだ及ばないの…。お兄様がシスターの格好をされているのはきっと深い理由があって…、私もそれにならって男性用の服を着るべきなのかずっと悩んでて…』
「いや、名前さんはそれで全く問題無いですよ。あなたのお兄さんのは明らかにおかしいですけど。」
名前がやって来た当時、普段無口な彼女がリクに心を許し、目を合わせて会話をしてくれた時は舞い上がったものだ。
最近ではリクと名前が言葉を交わさない日は無いほど二人の距離は近いものとなっている。
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「名前さんは泳がないんですか?」
荒川の住民がわいわいと騒ぎながら川で泳いでるなか、シロやビリーなどと一緒に川岸にいるいつもの修道服姿の名前に声をかけた。
『肌、見せたくない…』
「宗教上の問題ですか。」
『いや…、水着は持ってるし…そういうことじゃ無いけど、』
裾を掴んで視線をあちらこちらに飛ばす名前にリクはきょとんとしたまま話を続ける。
「スタイルいいのに。俺、見たかったです。」
うつむき頬をボッと染めた名前はそのまま小走りで教会へ行ってしまった。
「あれっ、名前さん!?」
一人残されたリク。シロとビリーは何とも言えない顔をしていた。
「リク君、名前ちゃん限定で天然たらしなんだねぇ。」
「え!?ど、どういうことですか!?」
一方、教会の自室でもんもんとしている名前。手には過去にP子が買ってくれた水着がある。
『リク…』
名前は閉じていた目をゆっくり開け、自分の修道服に手をかけた。
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マズイ…、何か俺が名前さんを傷付けるようなことを言ってしまったのだろうか…!!
あの後シスターと星にボコボコにされた。
「貴様名前に何を言った。」
「おいコラ泣かせたんじゃねーだろうな!」
もし泣かせてしまったなら謝らないと…!!
シスターが居ないのでノック無しに教会に入り脇目も振らず目的の名前さんの部屋に向かった。
「名前さん!俺なにか傷付けること言いましたか!?」
そこでノックをしなかった自分を恨む。
バッと開けたドアの向こうに見えたのは真っ黒の修道服を手に持つ名前さんの白い素肌で
『〜〜っ!!』
ガガガガガガッ!!!!
「ギャアア!!っごめんなさい!!!」
マシンピストルを撃ち込まれ一目散に部屋の外に飛び出した。思い切り閉めたドアに背をつけてズルズルと座り込む。
片手で顔を覆う。顔が熱い。
息を整えているとドア越しに声がかかった。
『…そこで、待ってて』
「えっ、あ、はい!」
モロに見てしまった…ごめんなさい名前さん。目を閉じると先ほどの光景がフラッシュバックする。駄目だ駄目だ、想像するな…。
顔の熱を追い出すように、深い息を吐いた。
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『リク…入っていいよ』
「は、……い…」
名前さんは部屋のすみで体育座りをしていた。その体は毛布にくるまれている。
「えっと、あの…」
ずらした視線に映ったのは、たたまれたいつもの服。ゴクリと喉が鳴った。
『…さっきはごめんなさい』
「い、いえ!謝るのは俺のほうです。外にいた時も、何か気に障ること言ったんですよね。」
『外…?…あ、や、その…あの時はリクに、水着姿見たかったって言われて…勝手に恥ずかしくなって逃げただけ…。』
名前さんは体を覆った毛布を顔まで引き上げた。
『それで、着てみたの…。でもやっぱりこの体じゃ他の人に見せられない、絶対気味悪いから。』
「そんなこと思うわけ…!」
『なによりっ、リク、には見せたくない。でもリクは見たいって言うし…どうしたら、』
思い込みでも自惚れでもない。顔が再び熱くなる。
「名前さん、じゃあ俺のために着てくれたんですか…?」
頷く名前さんの仕草でかけた耳からはらりと垂れる髪に見とれた。
「俺、そんなこと思いませんよ。名前さんならどんな姿だって、たとえどんなに傷だらけでも。」
頷いたまま下に落ちてた視線が上がり、いつもより弱い瞳が自分のそれと交わる。
『…分かった、リクだけに見せるよ』
「名前さん…」
『リクが取って』
毛布、と
彼女の口の動きがスローモーションに見えた。て、え?
「えっ!?お、俺がですか!?」
『自分でだと、まだ戸惑っちゃいそうだから』
俺の手は空をさまよう。伸ばしては戻し、伸ばしては戻しの繰り返しだ。
「じゃあ…失礼します、」
前にある合わせ目に手をかけて静かに開いていく。自分の両手に全ての熱が集まっている感覚。冬の日のように、指先がぎこちない。
いいか、やましいことなど何もしてない。毛布をどかしているだけだ。
それなのに言いようの無い背徳感に襲われる。開けた毛布と毛布の間、ちらりと見えた肌色。
「あ、…」
体育座りをしている名前さんの脚。修道服と同じ、黒色の水着。
「ビキニ…」
『え?』
「なな何でもないです!!」
目の前にある名前さんの肌。先程と違いしっかりと視界に入っている。こんなにじっと見ていて大丈夫なのだろうか…。
何かの痕や切り傷が残る体は目を引いた。それは傷のある体に驚いてではなく、もう白状するが100%やましい意味でだ。
名前さんが不安そうに声をかける。
『…リク?』
「名前さん…」
『うん?』
毛布はたたんで側によけた。
「気味の悪さなんてこれっぽっちも思いませんよ、綺麗です…すごく、」
『ひゃっ』
無意識に腹の辺りにある古傷に触れて、手はそのまま降りて膝からふくらはぎをなぞる。
『リク…っ』
普段表情があまり変わらない名前さんが顔を真っ赤にして涙を浮かべている。その顔を見た途端、背にぞくりと何かが伝った。
「名前さん可愛い…」
見つめあった目、顔が近付いて吐息が当たる。名前さんが目を伏せるのが見えた。
唇が、あと少しで
バァン!!!!!
「リク!貴様謝罪だけでどれだけかかって…」
死んだ
『お兄様…』
涙目の名前さんに迫って体を触る俺。うん、あかんな。これ。
「シ、シスター!これは!!」
ゴッ
体ごとシスターに向き合おうとしたと同時にこめかみに何かが当たる。
「リクルート、そのような行動をした自分を恨め。」
完全に目が座っている…!!!シスターが引き金の指に力を込めた、
バン!!!
「っ!!」
その音は名前さんから放たれ、シスターの弾は軌道が外れた。
『違うの、お兄様、私がリクに見せたかっただけなの。』
銃をかまえた名前さんは目を僅かに泳がせ、ポツリと言葉をこぼす。
これは名前さんが照れている仕草だ。ああ、俺もだいぶ名前さんのことが分かってきたなぁ。
なんて悠長なこと思っている場合ではない。
真っ黒な銃と真っ白な銃に挟まれた俺はもう呼吸もままならない。
『リクが誘ってくれたのよ…それでリクはこの体を綺麗だって言ってくれた…。私…リクになら、私の全てを見せても構わないの。』
「!!」
「!!名前さんん…!!それは、っ何と言うか刺激的すぎるというか…!!」
言葉の真意を色々と深入りに想像しながらあたふたと手をさまよわせる。名前さんは完全に俯いて赤い顔を隠してしまった。
いつの間にか突き付けられていた銃は無くなっていた。隣のシスターをちら、と見るとバッチリと目が合う。
「…貴ッ様ァァ……」
今にも血の涙を流しそうな目で俺を射殺さんばかりに睨み付けてくる。
すみませんすみません名前さんにやましいことはしません幸せにします名前さんを俺に下さい。
『私がリクを伴侶に選んだ時、お兄様は神父様になってね。』
その言葉でシスターは膝から崩れ落ちた。
シスターの
妹とリクルート
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