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素直じゃない



ニノはリクが好きだ。リクはニノが好きだ。

俺はニノが好きだ。

ラストサムライはP子が好きだ。P子は村長が好きだ。


名前はシスターが好きだ。シスターは、






『やめろ皆まで言うな星、しばくぞ。』




河川敷のほとりで雑草を引きちぎる名前と、その横でギターを弾き語る星。二人は夕日の光をたくさんに浴びている。


「んだよ誰もシスターはマリアのことが好きとは言ってねーぞ。」

『私への嫌がらせか?わざわざ横まで来てそんなくだらない歌歌うなんてよっぽど暇なんだな。そのだらけた生活は直すべきじゃないのか。』

「お前ももうちょいその口の悪さ直すべきだよな。」


星から離れるべく名前は座ったまま一人分の距離をあけて再び雑草を引きちぎった。


「またネガティブ思考でシスターのこと考えてたのか?」

『うるさい』


名前は今日も持ち前のネガティブ思考により、脳内でシスターに別れ話をふられたのだった。


『帰る』

「おいおい待てよ、まあ話そうぜ。」

『離せ変態野郎…!』


星に腕を取られ振りほどこうにも振りほどけず、しかたなく座り込むのだった。


『話すことなんて何も、』

「星と名前さんじゃないですか。何してるんですか?こんな所で」

『チッ』

「舌打ち!?」


後ろから現れたリクに名前はまたしても舌打ちを繰り返した。


『お前はお呼びじゃない。よい子はさっさと家帰って寝ろ。』

「相変わらずひどい言い草ですね。またシスターに(脳内で)ふられたんですか?」

『このッ…ぶっ殺す!!』

「わーわー!!ごめんなさい!!」


名前がリクの首を締め上げるその横で星は「あ」と指を指した。


「シスターだ」

『!!!』


一直線にこちらに向かってくる様子のシスター。名前はリクを放り投げ反対方向に逃げて行った。

その姿を見て顔を険しくしたシスターはさらに一目散に名前を追いかけたのだった。



「あー、行っちまった。」

「名前さんもシスターと付き合ってる現実をもうちょい受け止めたら良いのに。」






ーーーーーーーーーーーーーーーーーー





一方自宅であるプレハブに立てこもる名前はその後の未来を想像していた。


『(目が合った…!そして逃げた…!!これはシスターから

「なぜ逃げたんだ、名前は私が嫌いなのか、そうか別れよう」

と告げられるに違いない…!!!あぁあどうしよう…このままシスターと一言も話すことなく自然消滅…なんてことも…)』


ベッドの上で体育座りを決め込む名前の元に物音が響く。


「名前、ここを開けろ。」

『シ、シスター…!』


プレハブの扉がガタガタと動くその様はもうホラー映画のワンシーンにしか見えなかった。


『(なんで追って来たんだあの人…!開けない、絶っ対開けないからな…!!)』

ドガガガガ!!
「おじゃまします」

『ああもうやだこの人』


銃弾により鍵は無残な姿になり、シスターは何の気なしに扉をずらして入ってきた。


『何考えてるんだよもう…バイオハザードじゃないんだぞおい聞いてんのか、おい、こら、近付いてくるな!』

「名前は追い詰めないとすばしっこく逃げてしまうからな。」

『うさぎと一緒にするな!!』


人一人分の距離も無いほど追い詰められ、その目の前にある顔を睨みつけているとシスターは口付けを落としてきた。


『……………………読めた、…そうか、これは今後一切俺に近付くなという警告の口付け。』

「お前のその頭脳には私も賞賛するが残念ながらここでは愛情のキスだ。」


今度は両手で顔を固定してからじっくりとキスをした。ぴたりと固まった名前はシスターの修道服をシワになるほど握りしめた。


「相変わらず慣れないな」

『なんで…っ慣れる必要がある…ていうか私に無遠慮にキスをするな!!!』


なおも体育座りで顔を隠そうとする名前を引き寄せ、膝に乗せてからシスターは目を合わせた。


「お前は今私と恋人同士だろう。」

『私の中では42578回ふられてる。』


自分で言って自分で落ち込む名前の頭をシスターはわしわしと撫で回す。


『いいけど別に、シスターがマリアを好きだろうがステラを好きだろうが村長を好きだろうが別に関係ないし。』

「最後のはおかしい。いや最後だけでなくとも私が好きなのはお前だと何度言ったら受け入れてくれるんだ。」

『…いつ別れ話が現実になるかと思うとそんなこと気にしてられない』

「私は聖職者だぞ。嘘なんてつくものか。」

『うるさい!けつを触りながら語る聖職者なんぞいるか!!!』


バチーンと自分の尻に回る彼の手をはたき落とすと、名前はその勢いでシスターの顔を両手で挟み込んだ。

ペチンと音を立てた頬は少しだけ熱い。


「さっきの私の真似か?名前からキスしてくれるなら大歓迎だ。」

『違うわ!!目をつぶるな!!』


シスターのその様子に名前は手を瞬時にどかした。


『…シスターはいつまで私のことを好きでいるんだ?』


質問と同時に唇にシスターの唇が寄せられる。それは触れる直前で止まった。


「私とお前が存在し得る限りだ。」


シスターが口を動かすたびに自分の唇にわずかに触れる。あまりにも恥ずかしい、その場から逃げようと顔をそらすも、すぐにシスターの手で正面を向かされる。


『あの…ちょっと…近い…』

「今日だって今こうして私が会いに来なければ明日まで会えないところだったぞ。いい加減早く慣れてくれ。」


唇がかすめ、二人の呼吸が混ざる。羞恥と、別の感情で体が熱くなる。


『や、もう、…その、分かったから…』


名前の小さくなる声にシスターは口の端をわずかに上げた。



『ご……ごめんなさい…』



「名前は本当に可愛いな」


笑みを浮かべるシスターはその1cmの距離を無くした。





素直じゃない


(私が逃げるのはシスターが嫌いだからじゃないから)
(分かっている)

(一日一回は好きだって言ってくれ)
(お安い御用だ)

(それと新しい扉を買え)
(ああ、すまない)


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