短編。 | ナノ





ピアノのきみ
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クロノ・ストーンで拓蘭が親しくなかったら…の妄想。
蘭ちゃんが乙女です注意。













あの音が聞こえる度、

心に波紋が広がる。


   




あぁ。

ほらまた、

あのピアノの音だ。






読書に沈んでいた意識が、一瞬で引きずり出される。

余韻があっさりと断ち切られ、たちまち冴えてくる全神経細胞。

それらは全て、何処からともなく迸る微かな旋律を捉えようと、研ぎ澄まされていく。

自然と文字の羅列を追う目が止まり、

暫しそのまま、音に耳を傾けた。



「…誰が、弾いてんだろ」



思わず口に出てしまったのは、その音が余りにも美しいからだろうか。

普段は鬱陶しい喧騒にまみれた校舎内。

しかし今は、最終下校時刻間際で、すっかり人気も薄くなった。静寂は、自身の心と調和する。この静かな場所が、俺はとても好きだった。


雑踏なんか皆無の図書室。

その中で響く、微かなメロディ。




どうしようもなく、綺麗だ。




繊細な音の重なりが幾重にも繰り返され、その曲はいよいよ響きを増す。

沈黙に満ちたこの空間に、ポロポロと零れ落ちてくる音の粒が、何故か此方の興味を異様に駆り立ててくる。





無味乾燥な日常において、

それは、異質で。







そして同時に、

とても、とても、懐かしかった。











「…はは」

苦笑が漏れる。


「…懐かしいって、なんだよ」

苦笑が漏れる。


「なにが…、懐かしいのさ」

苦笑が漏れる。




「………っ、う」








次に漏れたのは、嗚咽。









「…なんで…っ」




嗚咽が、とまらない。



「なんで…なんで、なんで?」









ポロポロ、ポロポロ。


音の後を追うように、涙もこぼれる。


あぁ、本がぬれてしまう。

必死に拭う。

しかし、拭えども拭えども。







涙が、涙が。











「…なんで」








こんなにも、

俺の心を揺さぶるあなたは、だれですか。


ずっと、

そばにいてくれた気がするのは、気のせいですか。













ねえ、あのね、




好き。




とか、

思ってしまうのは、おかしいですか。






「なんで、忘れちゃったんだろう…」






ねえ。




「…きみは、だれ?」







たしかめにいく勇気もないんです。

忘れてしまった俺には。








「泣き虫は、俺じゃなかったよな…?」


ねえ、

泣き虫は、きみだったよね。



「俺じゃ、なくて…」





このピアノを、弾いてるきみ。





「おまえ…、だったよな?」





ねえ、




もしかしたら、きみかなって思うんだけど、




思うんだけど、

な。













「…あはは」








何度忘れようと、

俺はきみに恋するでしょう。










「好きだよ…」










きみと隣で笑いあってた日々が、

確実に存在していた気がするんです。















ピアノのきみ
(きみがいないとつまらなくてたまらない)

















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