記念日
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“目は口ほどにものをいう”
確かに。
だってまず、眼球というものは唇よりも脳味噌との距離が近いんだもの。
口よりも、目の方が、早く意識が伝達されるにきまってる。
しかも、目ってナマモノだからね。
神経を辿ってくる微細な感情の揺れ動きにさえ、繊細且つ精巧なナマモノである眼球は、敏感に反応してしまうんだよ。
と、理路整然を装って、ことわざを解説してみる。
うん。
装えてないのは重々承知。
意味不明なのも自覚済み。
だけど、そんなトンデモナイこじ付けが通用してしまうんじゃないかと錯覚してしまうくらい、彼は、それが顕著に表れるのだ。
間近に迫る、彼の顔。
そこで、ギラギラとまるで威嚇するみたいに光る彼の2つの眼。
瞳孔が心なしか収縮して、いつも以上に鋭利な眼差し。
ううむ。
どんなに控えめに見積もっても、彼の怒りは相当なものらしい。
困った。
全く身に覚えがない分、さらに動揺せざる負えない。
「か、狩屋とりあえず、どいてほしい」
「やだ」
ありゃ。
ここどこか分かってる?
部室なんだけども。
俺の体を床へ押し倒したまま動こうとしない彼に、思わず苦笑。
すると、
「なにヘラヘラしてんの?」
と、一層の冷視を受けた。
きゅうっと心が畏縮。
年下に気圧されてしまうとは、我ながら情けない。
「あー…。むかつく」
「ご、ごめんな狩屋、俺に何か不備があったのなら謝るよ。遠慮なく言ってくれ」
「俺がなんでむかついてるか、分かってないとこにむかついてんの!!」
「…え。じゃ、じゃあヒント」
ヒントってなんだよ。ふざけてんの?
そう言いたげな眼差しを容赦なく突き刺してくる彼に怯みながら、彼の言葉を待つ。
ポク、ポク、ポクと沈黙が三拍目を迎えたところで、
「狩屋大好き″って一億万回言ってくれたら教えてあげます」
と、彼の口が動いた。
…一億万回って何回だろう。
「教えねーよばーか」ということだろうかコレは。
是が非でも、自分で考えなければならないようだ。
うーん…。
「…先輩、まじでわかんないんですか?」
彼の眼光が、若干鈍った。
そして、俺から視線を反らして伏し目がちになる。
睫毛が琥珀色の瞳に水色の翳りを加え、どことなく悲哀に彩られる瞳に、ギリギリと良心が抉られた。
「ご、ごめん狩屋…」
「………。」
沈黙。
彼の口が、動く気配はない。
居たたまれなくなり、思わず口火を切る。
「…狩屋、あの、本当にごめんな…えっとあの、肉マンおごるよ!!」
「…………。」
「あとお菓子も!!ケーキとかでもいいぞ!!」
「…………。」
「ショートケーキ、俺の苺もやるし!!」
「…………。」
「狩屋…、本当にごめ…っ!!」
言葉の途中で、息が引っ込んだ。
首筋に、粘膜質が押し付けられた感触。
彼の唇が首筋に落ち、反射的に体が跳ねたのだ。
「ちょっ…、ここ、部室…っ」
身を捩り抵抗の意を示すが、彼は構わず痛いくらい吸い付いてくる。
「…おい…っ、狩屋!!」
彼の手が服へ伸びたところで、さすがに、彼の体を引き剥がした。
彼の肩を押してある程度の距離をとり、隙を見て上半身を起こす。
目線を合わせ、彼と対等な姿勢をとった。
と、
視界に飛び込んできた彼の瞳に、言葉を失う。
うるうると水の膜が張った双眸から、ボロボロと涙が零れ落ちて。
下睫毛に絡まった細かな水の粒が、きらきら光に反射して、彼の痛切な眼差しを誇張していた。
サアッと、血の気が引く。
「うわぁ狩屋ごめんっ!!」
咄嗟に、彼を抱き締める。
どうしようやっちゃった。
泣かせちゃった。
気が動転して、動転して。
とにかく、慰めるように頭を撫でたり背中を擦ったり、必死に彼の嗚咽を落ち着かせようと試みる。
と、唐突に、彼が言葉を発した。
「先輩。きょう、…何日?」
今日?
今日はえっと、
…あ。
もしかして。
「…俺と、狩屋が付き合って半年だ」
「そうだよ!!忘れんなばか…」
途端、一層肩を震わせ泣きじゃくる彼。
腕の中でまるで小動物のように泣く彼にときめきつつ、彼の回復を待った。
ごめんね。
わすれちゃって。
だって、
君といる日々は、
毎日が記念日なんだもの。
記念日
(毎日が特別なの。)
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