短編。 | ナノ





アイデンティティ
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蘭丸×蘭丸。拓←蘭前提。酷い捏造&妄想。注意です。
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アイデンティティ[identity]


人格における存在証明または同一性。




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「…は?」






間抜けな声が唇を割って零れる。


休日の日溜まりにすっかり緩んだ暢気な脳味噌に、容赦無く懊悩を叩き込んできたのは、目の前に佇む嫌と言うほど見馴れた人物。




「…な、なんなんだよ。お前」


「だから、俺は、お前だってば」



彼の翡翠色の瞳が、楕円にひしゃげる。



「俺は、霧野蘭丸だよ」



そう言って、口を弧に歪める彼の顔は紛れも無い自分自身のものだった。


意味が解らない。


お前、笑うなよ。


今の俺は表情筋の痙攣を覚えるくらい瞼を強引に引き裂いて口元を固く引き結んで、相当な引き攣り顔を晒している筈なんだから。

鏡の中のお前だって、そんな涼しい笑顔を浮かべていられない筈だろ。

こんなところに、全身が映るくらい巨大な鏡置いた記憶無いけど。




思わず、腕を伸ばす。



ふに、と、柔らかな頬。



鏡じゃない。

あのひんやり滑らかな銀盤は、2人の間に隔てられていなかった。


全身の毛が逆立つ感覚。

背筋をなぞる悪寒が、全身へ飛び火する。




「本物だぜ?」




だ、だから、笑うなよ。


今の俺は表情筋の痙攣を覚えるくらい瞼を強引に引き裂いて、口元を固く引き結んで、相当な引き攣り顔を晒しているんだから。


鏡の…って、これじゃ無限ループ。




「…意味が、解らないんだが」


「だから、俺はお前なんだってば」



呆れと嘲りの混ざりあった声。

鼓膜を擽る声は、聞き慣れた自分の声ではなかった。


「俺は、そんな声じゃない」

「そういうものだから。自分の声って、他人が聞くのと自分が聞くのじゃ全然違うんだぜ」


わかってるよ。
そんなの。

ただ、今直面する現実が受け入れられないだけだ。



「…俺だっていう証拠は?」

「証拠かぁ」


目の前の自分が首を傾げ考える素振りを見せた。

その時に気付く。


彼には、俺の持つ、2つに揺って胸の辺りまで垂れ下がる髪の毛がなかった。

ショートカット、と称するには少々長めだが、俺と比べれば充分短い。

まあこれが、何を意図するのかは、憶測すら浮かばないが。



「なぁ」


目の前の彼が突然沈黙を割る。


「なんだよ」


「お前は、自分を証明するとき、どうするんだよ」


「え?」



自分の証明?


そんなの。



「名前を言って…、えっと…あれ?」


あれ?


どうすれば、いいんだろ?

困惑する俺に、彼は「な?自分なんて曖昧なんだぜ?」と、吐き捨てた。



そして、

「だけど」と続ける。






「俺は霧野蘭丸だ。誰が何と言おうと霧野蘭丸なんだよ。」




例え、

自分に認められなくたって

霧野蘭丸″っていう存在以外には

なれないんだ。








彼の言葉に、

何故か言葉を失った。




何かを、抉られたような、
そんな痛みが、胸を苛む。







「…お前は、自分が嫌いだろ?」





ドクッ。





心臓が不自然に膨張した。





「い、いきなり、なんだよ」

「お前は自分が嫌い」





じりじり歩み寄ってくる彼に、思わず後込みする。





「べ、別に、嫌いじゃねえよ…」


嘘つき。


底冷えする彼の眼光に、瞳孔から貫かれた。


なんなんだよいきなり。

やめろよ。

その目で、見るな。





「俺のことなんか、大っ嫌いなんだろ?」





怯んでいる隙に、彼の指が手首に絡まってくる。





「認められないんだろ?消えてしまえばいいとか、思ってるんだろ?」



そして、そのまま伸し掛かられるような勢いで、壁へ押し当てられた。


不意討ちに対応できず、思いっきり頭を打ちつける。



「…いっ、!」


「自分に嫌われた俺は、どうすればいいかなぁ?」





教えて?


遠くで響く、霧野蘭丸だと言い張る彼の声。






意識が混濁に飲まれる。


打ち所、
悪かったのかな。


それとも、
余りの非現実に脳が強制的シャットダウン?


なんでもいいや。
いい加減、キャパオーバー。


このまま、

意識を手離してしまおう。





が、

何かに呼吸を阻まれた息苦しさに、正気に引き戻された。



「…っ、ん!?」


キス!?


同時に、胴体をまさぐられるような不快な感触。


訳が、解らない。


口腔を掻き回す、ぬるぬるとした肉感。

皮膚を撫で回す細い爪先。



反射的に漏れる、高い声。




「…っん、や…、めろ」


「やだよ。蘭丸」




耳元で、突然の囁き。




「…ふ、ぁ」





思わず、
膝が折れる。

体の力が抜けていくにつれ、




背中を壁に擦りながら、体重が床へ落ちていった。




「…んっ、ぁあ…っ、ぅ」




なにこれ。

なんでこんな。


いやだ。やめて。




「んっ、はぁ…!!」





不意に唇が離れる。


脱力し、項垂れた。


乱れた呼吸。


全身で呼吸をしながらでは、涙を噛み殺すことが出来なかった。


ポタポタと、服を濡らす水滴。



酸素の欠乏した脳内じゃ、状況把握なんかできなくて。

ただただ、今起きたことを、脳内で反芻させる。



「きもちよかっただろ?」



そんな言葉と共に、顎を持ち上げられた。


滲んだ視界に、
あの、忌々しい女顔。


やたらと存在を誇張する大きな翡翠の瞳。

それに薄く被った、どぎついピンク色の髪の毛。



俺は情けなく泣いているのに、



俺を見詰める自分は、口角をつり上げ、笑っていた。



訳が、解らない。







「なんで…、こんな、キス、なんか…」


「俺はお前に愛してもらいたくてきたんだよ」


「…い、いみわかんな…っ」




急に、息が引っ込む。


鎖骨に落ちた唇に、意識を持っていかれた。




「さ、さわんなよ…っ、やめろ…」



首筋に吸い付かれ、声が震える。

響くリップ音が、わざとらしい。


脳内に響いて、離れない。


「俺は、お前だから、お前の扱いには自信あるよ」


「……やっ、…やだ…」


耳元に、生暖かい息。

噛み付かれて走る刺激に、どうしてか体が火照る。






「ドコをどうしてほしいかなんて、丸分かりだから」


「…っ、ぅ、あ…っ」



「なぁ、きもちいだろ?俺を愛してよ」







なにいってんだよ。


おまえ。


無理だよ。


無理。

俺は、お前なんか、
大嫌いなんだ。

愛せるわけないだろう?






…あぁ、気持ち悪い。

全部嫌いだ。




その髪も目も鼻も口も、全部、嫌い。


男のくせに、

女みたいで、気持ち悪くて。


大嫌い。





「…鬱陶しいなぁ。この髪」





そういいながら、彼は俺の髪ゴムを引っ張る。


体の前に零れた長い髪。



…あぁ、

もう、



「…なあ、俺、髪短いんだぜ?気付いてた?」


目の前に迫る冷笑。



彼の揺らぐことのない翡翠の瞳に、ひとつの確証を得た。



そういうことか。

お前が、髪、短いのは。




「お前は、もう…」


「…あぁ、そうだよ。もう、神童がいなくても大丈夫なんだ」





そっか。


すごいな。お前は。


俺は、無理だよ。


神童がいないと、死んじゃう。





「なぁ、霧野蘭丸」



なんだよその名前は嫌いなんだ。


神童に愛してもらえない男の名前なんか、いらない。


あぁでも、

俺は、霧野蘭丸以外にはなれないんだっけ?



嫌だなぁ。



ほんとに。かなしい。









「…蘭丸、蘭丸、もっと、俺を見て」




他人のことばっかじゃなくて、


俺も見てよ。





脳内に木霊する、自分の声。













「それで、出来れば」







自分を、霧野蘭丸を、

愛してください。






じゃないと蘭丸という存在が、




死んじゃうから。





















アイデンティティ
(自己に嫌われた俺の、最後の足掻き)




















……………………………


言い訳という名のあとがき。



すいません…。

いみふで…。


単髪蘭ちゃんは、自分を愛してほしくてあんなことをしちゃった。

ツインテ蘭ちゃんは、女みたいな外見が嫌なくせに、神童くんに好かれたくて可愛い格好とかしちゃって、その矛盾に、苦しんでる…みたいな感じです。


蘭蘭の日に、どうしても上げたかったんです…。

















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