短編。 | ナノ





違ったバレンタイン
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付き合ってる拓蘭。
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ただいま神童宅にお邪魔しております。


本日は恋に恋する人達の為の祭典、バレンタインデーです。



そして、

毎年、比喩なんかじゃなく腐る程チョコを頂いている俺達は、

眺めているけで胸焼けをおこしそうな夥しい量のチョコ全てを、1人で抱え込んで地道に咀嚼していくのは、余りに精神的にも肉体的にも辛いので、


この2月14日のバレンタインデー当日だけは、


広い神童の部屋を借りて、貰ったチョコを並べて食べて、バレンタインデー反省会を催しているのです。


まあ、反省会といっても、お互い貰ったチョコを食べながら、お返しとか、今後の食生活について話し合ったりするだけなんだけど。




今年は、どうしようか。

甘い物を過剰に取ると体が心なしか重くなった気がして、部活に差し支える。


だけど、生っぽいものはすぐに悪くなっちゃうしなぁ。


もぐもぐ口を動かしながら、悶々としていると、隣の神童が俺の肩を叩いた。


彼に顔を向ける。


すると、ふっと顔をほころばせて神童が言った。



「やっぱり霧野、口の端にチョコついてる」



そう言うなり、神童は手を伸ばし、チョコで汚れているらしい俺の唇を親指で拭ってくれる。


なぞられた瞬間の感覚が異常にこそばゆくって、反射的に顎を引いてしまい、さらに思わず、目を瞑ってしまった。


暫くの間、唇を拭われている感覚だけに支配される。

なんだか物凄く恥ずかしい。

キスとは違う感触に顔の紅潮を感じながら、指が離れるのを待った。




「…霧野、可愛いな」



ふいに、そんな囁きが。


急に何言っているんだ恥ずかしい。それに俺は可愛いなんて言われても嬉しくないぞ。と、照れ隠しに彼をど突こうと思った瞬間、



床に押し倒された。


軽い衝撃に、目が見開く。

咄嗟の出来事に反応できず、呆気なく手首を拘束されてしまい、


彼に、顔を見下ろされる形となった。





なんだこのじょうきょう。




「霧野、顔、まっか…」





え。うそ。

思った言葉は声にならない。


彼が囁くなり、キスをしてきたから。






「…っ、ん」



唇を啄むような軽いキスを繰り返される。

ちゅくちゅくと、粘膜質が擦れ合う音。


「…ん、…ふっ、ぁ」


時折唇の表面を舌でなぞられ、妙な痺れが全身を襲った。


いきなり押し倒されてキスされて、

なにがなんだか、
分からない。



取り合えず、身動きもとれないので彼の唇を受け入れるしかなかった。








「唇、綺麗になったぞ」





暫くして彼の唇が離れ、そんな言葉が鼓膜に届いた。




あぁ、成る程ね。あのキスは俺の口についたチョコを舐め取ってくれていたのか。






…って、いや。

そうじゃないだろ。



やっと、脳が追い付いてきた。

これは抵抗した方がよさそうだ。


だって、俺達はチョコを逸早く食べなければいけないのだからな。

と、思ったのも束の間。







「…んっ、んぅ…ッ」




先程よりも、ずっと深いキスが襲いかかってきた。


強引に唇を割られ、彼の舌に、自らの舌を掬い取られて絡まれる。


「…やぁ…っ、ん…ぅ」


口内の全てを吸い取るような強烈なキスに、思わず喘ぐような声が漏れてしまい、顔が熱くなる。






なんだか、チョコの甘い味がする。

キスの連続で蕩けそうな頭の片隅に、そんな言葉が浮かんだ。













そして、

彼の唇が離れた頃には、もう、思考がめちゃくちゃで。









「…霧野」


神童の呼び掛けに訳も分からず、


はあはあ呼吸を乱したまま、




「…ん、きもちよかった…神童」


チョコの味が甘くて
いつもより、ずっときもちよかった。





なんて、


言っちゃったもんだから。





神童は、俺を見下ろしながら、妙に色気のある笑みを浮かべて。



「それは、誘ってるんだよな…?」




そう言って、







俺の頬をそうっと撫でた。















バレンタイン
(チョコじゃなくて、君を)



















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