短編。 | ナノ





バレンタイン
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拓蘭というより拓→←蘭。しかもなんか暗いです。
……………………………













「…今年も、大量だな」


彼の自室のテーブルの上を色鮮やかに彩るラッピングの山に、思わず、感嘆の声が漏れる。


毎度の事ながら、凄い数。
漫画かよ。


ピンクやら赤やらオレンジやら。所謂女子が好みそうな色がこれでもかと溢れかえっていて、若干、目がチカチカした。


可愛らしい包装紙や、クルンとカールしたリボンでくるまれた其れ等の中の1つを手に取ってみる。


と、何か引っ掛かる感覚。

少し力を入れて引っぱってみると、


愛しの神童サマへ″


そう書かれたメッセージカードがぶら下がっており、思わず、苦笑した。


サマ付けとか、すごいな。
漫画かよ。



「さすがだな、神童王子サマは。」


冷やかすように笑って、彼にメッセージカードを見せ付けるようにして、その箱を差し出す。


神童は「別に、そんなんじゃない」と困ったような顔して笑いながら、箱を受け取った。








あぁ、

なんだか、

好きな人がモテモテって、複雑。


誇らしいけど、なんだかなぁ…。


俺のチョコとか、

埋もれちゃうじゃん。

…まぁ、いつものことなんだけどさ。




と、

これ以上チョコ増えても迷惑かなと思いながらも、実は毎年こっそり用意してきているチョコの事を思い、少し、寂しい気持ちになる。


でも結局、いつも恥ずかしくて直接渡せないから、この神童のチョコ山に然り気無く突っ込んでってるだけなんだけど。

神童は、気付いてないんだろうなぁ。


さらに寂しい気持ちになったところで、神童が俺に声を掛けてきた。



「そういえば、霧野だって大量じゃないか」


そう言いながら、彼は、俺の傍らを指差す。

彼の指につられ、隣へ視線を送った。


視線の先には、俺が持参した大きめの紙袋。

限界までチョコを詰め込まれたそれは、ボコボコに歪んでいる。


確かに。言われてみると多いかも。神童よりはやっぱり少ないけど。

神童の家に着くまでに、破けなくてよかった。


「霧野だって、王子様みたいなものじゃないか」


「いやー、それはないだろ。お前がナンバーワンだって」


「だけど霧野は、男女問わず人気者じゃないか」


にやり。

そんな擬音がピッタリの笑みを浮かべて、彼は俺に、ひとつの箱を差し出してきた。


横目で眺めると、霧野蘭丸さんへ″と豪快且つ達筆な筆跡で書かれたメッセージカードがくっついた、やけにシックな色合いの箱。


手に取って、凝視してみる。


この感じは、もしや。


長年培われた観察眼による厳正なる審査の結果。


あぁ、

こりゃ、男からだな。


半ば予想通りの結果に、溜め息をつく。



「…なんで、男からも、くるんだろうな」


俺なんかの、どこがいいんだろう。
見る目を磨きやがれ。
と、一喝してやりたい。


「…まあ、霧野だから仕方無いだろ」


それ褒めてんのか?正直、微妙なとこだぞ神童。


ガサガサと、紙袋を漁ってみる。

今、確認した中でも7個くらいは恐らく同性からの贈り物だ。


うむ。困った。


確かに俺は神童が好きなわけだから、同性愛者なのかもしれないが、正直、神童以外の男を恋愛対象に見れる自信はない。

神童限定なんだよ。この気持ち。


だから、可哀想だけど、君達の恋が叶うことはないです。俺のことはあきらめて、新しい恋に生きてください。

まあ、女の子達にも、同じ言葉を贈りますけどね。

だって、俺は神童にぞっこんだから。他の人に恋するなんて有り得ない。





…って、

なに恥ずかしい台詞考えてんだよ。俺は。

少女漫画のヒーローか。


頬の紅潮を感じ、顔を手で覆った。

1人で足をジタジタさせ、暴れ回る羞恥に堪える。


片想いなんだぞ俺。

こんなクサイ台詞吐けるような立場じゃないんだからな。









と、ここで足が止まる。







…あぁ、もう。

自分で言って、へこんだ。


自分で傷を抉るなんて、
ばかだなぁ。





指と指の隙間から、紙袋を覗き見る。



込み上げてくるのは、くれた人達への痛切な感情。










ごめんね。


叶うはずないってわかっててもさぁ、

簡単に、好きって気持ちが消えるわけないのは、俺が一番、よく知ってるのに。



謝るだなんて、大きなお世話だと重々承知しているが、そう思わずにはいられなかった。










毎年、

沢山のチョコを貰う度に、ギュウッと胸が締め付けられて。


叶うことのない気持ちの塊を咀嚼しながら、俺は泣きそうになる。


(この中に、本気の気持ちが入っているのが何個あるかは検討つかないけれど。)





振り向いてもらえない辛さを知っているのに、

俺はそれを、誰かに強いてるんだ。


その事が、いたいくらい胸を突くんだよ。








(…ごめんね。)















「…ていうかさ、霧野」


様々な感情に苛まれているところへ、神童の声が響いた。


顔を見られたくないので、隠したまま彼の言葉に応える。


「なんだよ、神童」


「さっき、渡したチョコ、あったじゃん」


あぁ、あの達筆チョコ?

それが、どうかしたのか。


「あ、あれな…、じ、じじじ実はな…」


大丈夫か。神童噛みまくってるぞ。声、パサパッサだし。


「あのチョコは、えっと…っ」


随分引っ張るな。

なんだよ。どうした。













「やっぱり、なんでもない…」




なんだよ。











…期待して、

損した。










顔を覆ったまま、苦笑した。











……………………………








神童拓人は、霧野がトイレ行ってくると席をたち1人になった瞬間、




「今年は、渡せたんだけどな…」




そう呟き、俯いた。









霧野に、


チョコを渡した瞬間の、

あの顔、みた?


すごい、

迷惑そうな顔してた。





しかも、


(なんで″)

(男からもくるんだろうな″だってさ…)







やっぱり、叶わないのかぁ。

この気持ちは。












神童の頬を、何かが伝う。

















バレンタイン
(やっぱり、伝わらない)














……………………………

どうしてこうなったのか自分でもよくわかりません。最初はラブラブ拓蘭を書くつもりだったのに。


きっと蘭ちゃんは達筆チョコの筆跡が神童くんに似てるって思って、若干期待してたんですよ。

きっと神童くんは蘭ちゃんが毎年チョコ忍ばせてる事に全く気付いてない。


あぁ、お互い泣いちゃう拓蘭とか…。


拓蘭難しいです。


















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