愛に飢えた少年
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「狩屋、細いなぁ…」
向かいの彼がそう呟きながら、机に投げ出していた俺の手に指を絡めてきた。
思わず、菓子パンを口に加えたまんまの状態で固まってしまう。
パン生地に歯がめり込み、溢れたクリームの冷たい感触が歯茎を刺激した。
指の輪郭をなぞるようにして、滑っていく彼の長い指。
こそばゆい。
むずむずして、
なんだか、落ち着かない。
パンを咀嚼しつつ、どうしたものかと視線が泳ぐ。
細い爪先を、硝子細工を扱うように恐る恐るといった様子で、そうっと撫で付けてくる先輩。
手首を掴み、「ほら、親指と中指、こんなに重なる」と、その部位を見せ付けてきた。
「…別に、普通ですよ」
「そうか?」
俺よりも数段白くて、淡く桃色に光る爪が、ほんの少し肌を擦する。
擽ったさに辛抱堪らず、腕を引いた。
彼の指がほどけて、「あ」という言葉が静寂にポツリ。
その余韻が醸し出す気まずさを誤魔化すように、パンを噛み千切って、大袈裟に顎を動かす。
口の端についたクリームを舐め取って、
先輩の顔を一瞥した。
バチリと目が合う。
「ごはん、それだけ?」
先輩の問い掛けに頷く。
「少ないよ。それだけじゃ」
「足りますよ」
「お前だから細いんだよ」
もっと食べなさい。
そう続け、自分のお弁当の卵焼きを箸に取って突き出してくる。
「い、いいですよ」
「美味しいぞ」
にっこり。
目尻を緩めて、慈しむような微笑。
ざっくりと、
心臓を貫いた。
頭を過ったのは、
どこかへ消えたあの人達。
明るいパステルカラーで彩られたお弁当。
目の前の卵焼きは微かに甘い香りがする。
さっき触られた手が、まだむずむずしてるのは、
彼の手付きが、泣いた俺を慰めてくれた母親の、
優しい手付きに似ていたから。
あぁ、
やめてよ。
そういう態度。
思い出しちゃうよ。
ばかやろう。
もうさぁ、
いつか失うものなら、
要らないって決めたんだ。
また、
欲しくなっちゃうような態度とらないで。
どうしようもなく込み上げてくる感情に、
ひたすら歯を食い縛った。
「ほら、遠慮せず食えよ」
優しい微笑に、
抉られていく何か。
(…じゃあ、)
(口移ししてよ。)
親鳥が、自分の子供にするみたいに。
俺ね、
食べ物なんかより、
あんたに飢えてます。
愛に飢えた少年
(愛ってね、君のこと)
…………………………
あとがき
なにかと世話を焼いてくる霧野先輩に、母親への憧れと恋慕を同時に抱いてるとかそんな感じ。
所謂、光源氏です。
マザコン。
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