アンビバレンス
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アンビバレンス[ambivalence]
両面価値。二重傾向。相反する感情の同時存在。
………………………
教室には2人きり。
放課後の喧騒は、とうに遠退いた。
窓からは斜陽。
ほの暗い教室を、紅色が這いずる。
そして、
静寂に響くのは、
「きりのせんぱい」
狩屋の猫撫で声。
彼は、首を傾げて、微笑んだ。
無邪気な仕草にどことなく孕んだ不気味さに、悪寒が走る。
「やってみるもんですよねぇ。ハンターズネット」
くすくす。
自分の手を眺めながら、心底愉快そうに、狩屋は笑う。
そんな彼が忌々しくて、目尻が裂けるくらいに睨み付けた。
身体中に巻き付いた蛍光ピンクの細い糸状の物体は、衣類を通し、皮膚まできつく食い込んでくる。
痛い。
だけど、とれそうもない。
「先輩も、ミストやってみればいいんじゃないですかぁ?」
まあ、
霧なんか、なんの役にもたたないでしょうけど!!
あっははは!!
狩屋の声がこだまする。
彼の小柄な体がいつもより大きく見えるのは、彼が机に腰掛けているから。
そして、俺の体は、その机の付属品である椅子に拘束されている。
彼の顔を見るには、少々上を向かなければならない。
いつもと、
立場が、逆転。
些細な事だったが、身動きがとれないという状況下において、それは、どうしようもなく恐怖を駆り立てる要因となった。
夕日を弾いてチカチカ瞬く睫毛は、彼の大きな瞳を縁取って、鋭利な眼差しをさらに誇張する。
眼光の切っ先を容赦なく突き立て笑む狩屋に、
心が萎縮した。
彼は軽く身を乗り出して、指を俺に伸ばす。
鳴り響く警告音。
心臓が、狂ったように脈打つ。
どうにかしようと身を捩るが、
椅子の背の後ろで拘束された手首は、
解けそうもなく、
僅かに仰け反ることしか出来ない。
やがて、
頬に触れた彼の指の冷たさに、
全身が固まった。
「そんな、怯えないでくださいよ」
くすくす。
鈴を転がすような笑い声。
狩屋が、じっくりと頬を撫でる。
「いつもの、嫌がらせの、延長戦なんで」
その瞬間、
彼の優しい手付きが豹変し、爪が皮膚に食い込んだ。
反射的に体が飛び上がり、呻きが唇から漏れる。
「い、たぁっ…」
たぶん、抉られた。
ジンジン疼く痛みに、歯を食い縛る。
「…綺麗な顔に、傷ついちゃいましたねぇ?」
あは。
軽く笑いながら、彼は指を舐めた。
爪が、少し血で汚れている。
「狩屋…、お前」
「霧野先輩のそういう顔、いいなぁ」
顎を持ち上げられ、
間近に迫る、彼の笑み。
竦み上がってしまう。
どうしても。
「先輩は、本当に、本当に、可愛いですねぇ…」
欲しいなぁ。
アンビバレンス
(憎くて愛しいあなたへ)
……………………………
あとがき的なもの
これ状況わかりますかね…。
えっと、
2人は向かい合ってて、
狩屋は机に座ってて、
霧野は椅子に座った状態で縛り付けられてるって感じです。
狂い気味の鬼畜狩屋が書きたくて前置きとして書いたんですけど、
タイムアップ。
もしかしたら続くかもです。
ていうか続き書きたい。
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