短編。 | ナノ





高校生マサ蘭でキスしたり
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「先輩、もう我慢できないです」


抵抗する間も無く壁に追い詰められ、頬に手を添えられた。


間近に迫る狩屋の神妙な顔つきに、

あぁ、とうとうこの時が来てしまったか。

と、


息を飲む。



睥睨するように上目遣いをする彼の目は、


長い下睫毛がその眼光の強さを誇張し、

切羽詰まった光を放ちながら、ピカピカ黄色く光っていて。


信号の警告ランプみたいだった。




すっごい真面目な顔。



どうしよう。

緊張してきた。





「…タンマなし?」


「当たり前でしょ」


彼は、素っ気なく言い放ち、俺の頬に置いた手を、首筋へ滑らせた。


「…っ」


彼の指先が、爪が、皮膚をこすって、


擽ったくて、

思いがけず肩が震える。


「先輩、ほそ」


うなじへ指を回しながら、狩屋が呟いた。


「女みたい」


「…女じゃねーよ」


こういうときに、萎えるようなこというな。


不愉快な発言に眉をひそめると、

狩屋はごめんを二回繰り返し、


「分かってますって。喉仏とか意外と出てるし」


と、苦笑した。




首を撫でていた指が一旦離れ、耳付近で髪をまとめているゴムを引っ張る。


スルリとゴムが抜け、髪が肩の前へ零れてきた。


「先輩髪の毛解いていいですか?」


「もう解いてるだろ」


「あはは…すいません、だって、先輩、綺麗なんだもん」


狩屋は微笑んで、こめかみの辺りから、指を髪に埋めた。


撫でるように、髪の毛を梳いていく。


心底愛しそうものを触るような、彼の指使いに、


嬉しさと恥ずかしさが綯い混ぜになった感情が、胸いっぱいに溢れてくる。



「…先輩ってなんでこんな綺麗なんですか?」


「な、なにいってんだよ…」


「あーもー、本当に、めちゃくちゃ綺麗」


頭おかしくなりそう。

そんな囁きが聞こえたかと思ったら、

ふいに、彼から口付けを受けた。



「ん…っ」



一瞬怯み、

軽く啄むようなキスに、全身が凝固した。



やがて唇を割って侵入してくる舌に、自らの舌を絡めとられ、


貪るようなキスの連続に、言葉の成り損ないみたいな情けない声が盛れる。


「んぅ…っ、ぁ」


「先輩…、力ぬいて」


彼の、相手の反応を伺いながらの優しい動きに、意識が溺れていく。



「…かりや、」



もう、息なんか、しなくてもいいから。

もっと、深く、


もっともっと、してほしい。


「ねぇ…っ、もっと」




舌の絡まる音と、掠れていく甘い声が鼓膜に響いて、

まるで、頭の中まで愛撫されているような感覚。


あまりの気持ちよさに、腰が砕けてしまいそう。



「…っはぁ、…、」



やがて、唇が離れる。


ほんの少しの間、


互いの唇を透明な糸が繋ぎ、

まるで、名残惜しさを表しているかのようだった。





濡れた唇を少し拭って、乱れた呼吸を整えようと俯く。



しかし、

顎を持ち上げられ阻まれた。



潤んだ視界に飛び込んできたのは、彼の大きな瞳。


くすんだ水色の前髪から、鮮やかな黄色が透けてキラキラ光っている。


まるで、

蜂蜜を含んだように甘く潤む彼の瞳に、

不覚にも、心臓が跳び跳ねた。



狩屋は唇を軽く舐め、呼吸を乱したままの状態で口を開く。


「ねぇ…先輩」


彼の親指が、

唇をなぞっていく。



「…キスで、こんな、きもちいんですよ?」



狩屋は目尻を緩め、甘い微笑みを浮かべた。


細められた目元から迸る色気に、頭がくらくら。


目眩に、苛まれる。




「もっと先輩に触ったら、どうなっちゃうんだろうね…?」


しんじゃうかもね。

きもちよすぎて。




抱き締められて、耳元に響く微かに震える甘い声が、鼓膜を擽った。


シャツを軽く捲られ、背中を直に触られる。


「…っあ」


思わず体が反り返り、同時に喉から声が出てしまった。


背筋を滑っていく指に、込み上げてくる恍惚感。


程好い刺激が、気持ち良くて、

つい、

零れそうになる声を必死に噛み殺しながら、とてつもない羞恥に顔が熱くなった。


彼のもう片方の手が、釦をはずす。


第3釦まで空いた襟口から、狩屋の指がシャツの中へ滑り込んできた。


ゾワ。

彼の親指が鎖骨を掠め、奇妙な痺れが、全身を走る。

剥き出しになった肩に、唇が落ちてくる。


「…っ!!」


吸い付かれ、息が引っ込んだ。


耳元に、彼の息遣いが響く。


普段と明らかに違った性急な呼吸に、頭が掻き乱される。



「かりや、…っあ」



心臓、破裂しそう。


毛細血管の末端にまで血液が叩き付けられ、脈打つ度に、全身が痛い。




ていうか、なんで俺ばっかり攻められてんの。

俺もなんかしたほうがいいの。

どうしよう。


このままじゃ、主導権が完全に狩屋のものに。





「…か、かりや!!こっち見ろ」


「…?」


彼が、怪訝な表情を浮かべて顔を上げる。


「どうしたんですか先輩…」

彼の言葉を遮るようにして、

肌を露にしようとする彼の手を握り、


唇へ、そっと、口付けをした。



「…俺も、狩屋になんか、しようかなって」


顔の紅潮を感じながら、ありったけの笑顔を浮かべた。


呆然とした彼の柔らかな髪に指を絡めて、首を傾げて、もう一度笑いかける。


狩屋、吃驚してる!!

やった!!

俺にもできた!!



狩屋は鳩が豆鉄砲くらったような顔をして、


ぱちくり、大きく瞬き。


そして、自分の唇に軽く触れたあと、ゆっくりと口を開いた。


「…先輩、キス、へた」


狩屋は、途切れ途切れに呟いたあと、

堪えられないといった感じに、笑い始める。


「なっ!?」


あはははっ。


失礼極まりない笑い声を軽快に響かせて、狩屋は目を擦る。


な、泣くほど、笑わなくたっていいだろ!!



「あはは…っ!!へたっていうか、えっと、子供みたいなキスするんですね、先輩って」


高校生で、このキスはないでしょ。


そう言って笑い続ける狩屋に、反論しようと必死に言葉を探したが、


「い、いつも、狩屋に頼ってやってたから仕方ないだろ!!」


結局口から出た言葉は、あまり、反論にならなかった。


ていうか、むしろ墓穴を掘った。


あぁ、俺の方が先輩なのに。

やっぱり、狩屋には、勝てないか。





「…そ、そんなしょんぼりしないでくださいよ。俺、嬉しかったですよ?」


「…本気か?」



狩屋は頷いて微笑んだ。


その顔は本当に嬉しそうで、

此方がつい、胸がきゅんとしてしまう。




「それに、これから教えてあげます。キスの仕方とか、いろいろ」













触れ合うことに伴う、幸せについて。


俺は、

お前に教えてもらった。








「先輩、愛してる」





俺も。











キスしたり
(もっと、もっと、ね?)

















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