短編。 | ナノ





行き場のない想い
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今こうやって、並んで電車を待っているわけだけど、


2人の吐く白い空気が、空で混じり会って溶けてくくらい、近くにいるわけだけど、


どうしてか、遠い。


俺と霧野先輩の距離は。




電車が来るまで16分。



椅子に座っているのは、俺達だけ。


ホーム内の照明が、やけに此方を照らしている気がする。



沈黙に沈む2人。


俺は、


隣で、読書に耽る先輩を一瞥する。


先輩は気付かない。





柔らかそうな髪。

頬に影を落とす長い睫毛。

照明により、白いハイライトの入った翡翠色の瞳。

軽く結ばれた、淡いピンク色の唇。


鼻筋の通った綺麗な横顔。




暫し見蕩れる。

胸がいっぱいになって、視線を反らした。


目を強く瞑る。


ぎゅって、我慢するみたいに。


だけど、

口は、動く。



唇を割って、気持ちが零れてしまう。



「先輩好きです」


薄目で、隣を見遣る。


先輩は無反応。


本に視線を落としたまま微動だにせず、沈黙したまま。


だけど、


よく見ると、


文字の羅列を追っていた目の動きが、確実に止まってる。



先輩は、

俺の気持ちを、きいてくれる。




きいてくれるだけだけど。



「…何度目だよって感じですが、やっぱり俺、先輩が好きです。」



本当に、何度目だろう。


もう数えきれない程、好きだと言ってきた。



もう、ずっと。

はじめて告白をして断られて、

その日から、

今日まで、ずっと。


こんな風に高校まで追い掛けて。


暇さえあれば、先輩に好きだと繰り返した。


もはや、彼に愛を呟くのに感情の起伏なんか必要ない。




先輩は、

拒否も否定もしない。

ただただ、黙って、きいてくれるだけ。


俺は、もう、とっくに、霧野先輩の気持ちを知っている。


分かっていて、理解してるんだよ。

俺の想いは叶わないって。



だけど、

彼の優しさに甘えて、繰り返し繰り返し、好きという言葉をぶつけてしまう。


溢れてしまって、苦しいから。

息ができなくなって、死にそうになるから。


先輩への告白が、今の俺の一種の呼吸確保の手段なの。





「別に、振り向いてもらいたいわけじゃないんです。…本当に、ただ、好きなだけ。」


好きなだけ。

大好きなだけ。


繰り返す。



静寂にポツポツ消えてく声は、

いつもと何ら変わらない。

脈拍にも、目立った乱れはなくて、

驚くくらい平常心。




ああ、きっと、


動揺しているのはきっと、先輩のほう。


出来ることなら、俺の言葉に耳を塞いでしまいたいだろう。



受け入れられない好意をぶつけられる程、

苦しいことはないんだもの。



いっそ嫌って。



先輩はそう思ってる。


分かるもん。雰囲気で。


最近、読書に没頭しだしたのも、俺との会話を避けるためでしょ?






「先輩が俺を嫌いだろうが何だろうが、関係ありません」



ああ、なんて、自分勝手。


先輩は人の好意に無関心でいられる程、無神経じゃない。

むしろ、優しい人。

慈悲深くて、思慮深い。



俺はそこに容赦なく漬け込んでる。


先輩に告白し続ける。



彼は、

俺の気持ちを受け入れられない事への償いなのか、


俺の気持ちを、何度も受け止めてくれる。


告白を聞いてくれる。



沈黙で、受け止めてくれる。




「先輩…、すき。たぶん、ずっとすき」



先輩は、無反応。


ひたすら沈黙。







読書の格好を貫いて、俺を見ようとしない。





「ごめん。先輩。でもね、本当に、大好き。」




拒まないで、聞いてくれる。


きいてくれるだけ。


優しい優しい、霧野先輩。




でもね、なんでかな。


すごく残酷な気もするんだ。

先輩のその態度。


正直に、こっぴどくフればいいじゃん。


ねぇ、

先輩、こっちみてよ。


真っ正面から俺を見て。



しつこい!

って、ふってよ。








…嘘。



やっぱりこっち見ないで。

俺の言葉だけ聞いてて。


喋らないで。






ごめんね。

こんな、自分勝手で。








……………………………






先輩さぁ、



もういっそ、

俺の想いにつぶれてよ。





俺の行き場のない想いで、

圧死すればいい。























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