短編。 | ナノ





霧野先輩へ
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先輩を親に投影していなかったといったら、


嘘になる。





「ちょっと強引だったぞ。」

諭すように、そう言い放った先輩。



叱られたのなんて、

すごく、すごく、久し振りだった。








みんな、

俺に気を使って、


優しかったから。





みんな、

俺を、突き放すみたいに、

優しかった。



『適当な善意』

『当たり障りの無い同情』


見え透いたそれらに吐き気がした。


まあ、孤児で、

しかも、心を閉ざした少年なんかに関わるのなんて、


誰でも嫌だろうなと思うけど。









(背番号3番。霧野蘭丸…)



正直、むかついた。



下手くそのくせに、

って、




でも、

それ以上に、心を乱したのは、


まるで、

親のようなその態度。







「一度注意したぐらいで」


と、

先輩は笑うかもしれないけど、



あの頃の俺には、


あれだけで充分だった。





フラッシュバックする、

幼い日の記憶、



お母さん。


お父さん。




先輩を見ると、

なぜか、脳裏を過る、両親。







戸惑いは、嫌がらせへ姿を変えた。




今、思い返してみると、



両親の面影をもった先輩に、



両親への恨みをぶつけていたのかもしれない。










爽快だった。



あの恨みがましく歪んだ顔。





(ざまあみろ)





もっと、もっと、

もっとその顔見せて。




俺だけに、見せる、


俺だけを見てるその瞳。



いい、いいよ。


その顔最高!!









構って欲しかったんだきっと。


俺は、先輩に両親の面影を見て



そんな子供っぽいことをしてしまった。









「俺は信じる」



あの時の先輩の顔。


なにかが弾けたみたいに、
ハッとした。



覚めたと言うより、

醒めたみたいな感覚だった。





(信じるだなんて言葉、)

(あの人たちの口から、聞いたことなかった)





安易に人を信じたことによって、

すべてを失った両親。




『信じなければ!!』


『信じるだなんて、馬鹿なことをした!!』





毎日、毎日、

呪詛のように鼓膜を震わす言葉。


両親の嘆きはやがて俺に絡み付いて、

引き剥がせなくなった。









(ああ…)


(この人は、)


(お父さんと、お母さんじゃなかったんだっけ…)






そう思った途端、


気が抜けた。










月山国光との試合後、


先輩に謝ろうと思ったんだ。


だけど、




「ありがとう。信じてくれて。」


あの時の、



あまりに綺麗で真っ直ぐな瞳に、




俺は、

言葉を失ってしまったんですよ。















(恋に、)

(落ちるときって、)






(こんなにあっさりだったのか。)

















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