かにばり?
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「先輩みてるとよだれでる。」
は?
そんな声と共に、霧野先輩が右手を止める。
ノートに並ぶ英単語の羅列が途切れた。
「何いってんの、お前。」
「いえいえ。お気になさらず。」
怪訝な表情を浮かべ軽く小首を傾げた後、先輩はまた、ノートに視線を戻す。
右手が再びアルファベットを綴りはじめた。
手が、書く速度に応じて、クイクイ動く。
ほっそりした手首が、袖口からチラチラ。
薄い桃色をした爪先が、証明に淡く光る。
華奢な指は、白くて、
(…あー、)
沈黙の中、
響くのは、
カリカリと、シャーペンの芯が削れる音。
加えて、
(おいしそー…)
ゴクリ。と、
自分の咽が鳴る音。
「…先輩」
「ん?」
「お腹空いた」
「まったく…。まだ、勉強はじめて、一時間もたってないぞ。」
先輩が顔を上げ、此方を見る。
呆れ顔。
可愛くて、綺麗。
困ったように苦笑して、
薄い唇から、白い歯が覗いた。
細められた翡翠の瞳に、桃色の睫毛の翳りが映る。
ゴクン。
先輩の目は綺麗ですね。
飴玉みたい。
「じゃあ、6時までやろう。あと7分。それが終わったら、コンビニでも行こうか。
第2ボタンまで外した襟元から、鎖骨が見える。
凹凸の少ない、滑らかな首筋。
白い。白い。
淡い光の粒子を放つ、白い肌。
なめたい。かじりたい。
先輩たべたい。
「菓子パンでも買って、また、再開しよう。テスト、もうすぐだからな。」
釘付け。
先輩に釘付け。
勉強なんか、手につかない。
「狩屋?どうした?」
ああ、
先輩、たべたいなぁ。
どういう意味だろ。
分かんない分かんない。
どっちでもいい。
「狩屋、今回英語赤だとやばいんだろ?勉強、しなきゃ。」
先輩が此方を上目遣いで覗き込んだ。
艶々した眼球が、
宝石みたいな双眸が、
(きれい…)
ああ、だめだ。
我慢できないもう知らない。
「先輩」
シャーペンを握った右手を、
左手で、
鷲掴みにした。
狩屋?
先輩が俺の名前を読ぶ。
先輩の表情が、不安気に歪んだ気がしたけど、
構ってらんない。
「先輩みてると、お腹すく…」
なんかね、
むしょうに、
欲しくなる。
「…先輩たべていい?」
先輩の右手を口元へ引っ張る。
シャーペンが転がって落ちた。
舌舐めずり。
して、
そして、
先輩の肌に、噛み付いた。
かにばり?
(いただきます)
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