短編。 | ナノ





口移しの嫌がらせ
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湾曲に縁取られた輪郭を、なぞるように指を滑らす。

仄かに紅潮した頬は、確かな熱を抱き、

彼が、健康体ではないことを物語っていた。



乱れた前髪が、彼の閉じられた右の瞼にかかっている。

退かそうと、指を伸ばしかけたが、

目を覚ましてしまっては悪いと、躊躇い、結局止めた。



(…先輩、思ったよりきつそう。)


静寂に響くのは、

苦し気な浅い息。

口は苦し気に半開きで、唇が乾燥していた。



呼吸に合わせて上下する胸。

はだけたワイシャツから覗く肌は、火照っていて、

汗が滲んでいた。




お見舞いにと、持参した飴玉をポケットの中で握り締める。


こっそり、枕元にでも置いてこようかと思ったけど。




(こんなの、食べれないだろうな…)


取りだし、包みを開け、口へ放り込んだ。

口に広がる苺の甘ったるい香り。

俺にとっては、好物だけど、

病に臥せった先輩には、気持ち悪いだろう。


(…部活もどるか)



でもなー、

俺が戻った途端、

キャプテンがここにきそうだし。



(どーせ、イチャイチャするんだろうなぁ…)


むかつくなぁ。

ソレは。




どうしたものかと、モタモタしていると、


「…んっ」


霧野先輩が、小さく唸った。




ドキッ



吃驚して、思わず動きが止まる。



(…やばいやばいやばい)




バレる!!


お見舞い来たことバレる!!


やだ。

そんな、恥ずかしすぎだろ!!






桃色の睫毛が、小さく震えた。





そして、うっすら、


先輩が瞼を開けた。




(…やばい!!)




言い訳!!

言い訳考えないと!!


え、えっと、

これは違くて、その!!



別に先輩が心配とかじゃなくてですね!!

部活をサボる口実に…









「…しん、どう?」








ガリッ。





飴玉が砕けた音がした。






意識が朦朧とした先輩がよんだのは、

キャプテンの名前だった。






(…なにそれなにそれなにそれなにそれ)








なにそれ









……………………………




部活直前に更衣室で意識が無くなった俺は、

結局、

部活終了後に、神童の家の車で送迎してもらった。


(…しかも、部屋まで付き添ってもらっちゃったよ)



確かに一人じゃ、足下が覚束無いし。


でも、


(申し訳無いなぁ…。)



ベットに体を埋めながら、神童を見る。



神童は机の上に俺の鞄を置き、

こちらを向いた。






「…なあ、霧野、キスしていいか?」


別れ間際。


神童の唐突な言葉。


戸惑ったが、逆らう理由も権利もないわけで。(世話かけちゃったし)




「かぜ、うつるぞ…?」


「霧野のならいい」



よけい熱が上がりそうだと思ったけど、まあ、いいか。













数秒唇を重ねた後、


神童が言った。




「なんか、霧野甘い」


「うそ」


「苺アメみたいな味がする」









…………………







ざまあみろ。


狩屋は、唇を舐めながら、心の中で呟いた。



身を裂く冷気に、つい、足を止める。



クシュン。



くしゃみ。




(風邪、感染ったかな…)






霧野先輩。



甘ったるい苺味は好きですか?

















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