短編。 | ナノ





体液。眼球。
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『全身隈無く愛してる』






ナイフの切っ先を、細い首筋に圧し当てた。


そして、

スウッと横に引く。


殆ど凹凸の無い滑らかな首に、紅く細い線が浮かび上がる。




痛みに顔を歪める霧野を見て、

思わず、顔がほころんだ。





…痛い?

痛いよね。

もっと、痛がってよ。


君の、色んな顔見たいんだ。






雪のように白い首を紅い液体が彩る。


細い傷口から滲む鮮血は首を伝って流れ、ネックレスのようになる。


光を反射して淡く光る白い首は、

粒子がほとばしるほどに、
美しかった。


そこにアクセントを加える禍々しいまでに赤い液は、
狂ったレースのように首を這いずり、

首筋を狂気と妖艶で飾る。



赤と白の美しくも醜いコントラストに目が眩んだ。

思わず、傷口に触れる。

血が、手に、ついた。



赤く紅く透き通る液を、恍惚とした笑みで見詰める。


眩い程に美しい鮮血。

無垢な君の赤い体液。


全身を駆け巡る歪な感情は、着実に俺を熱くさせる。



そして、

その液を舌で舐めとった。

丁寧に、丁寧に。

残さないように。

溢さないように。


指の腹には指紋の溝に染み込んだ赤い血が、紋様のようにを浮かび上がり、

その、皺の隙間まで舌を這わせるように幾度も指先を舐める。


勿体ない。

こんな綺麗なもの、溢したままほっとくなんて。


口に広がる鉄のような妙な味。

しかし、

これが君の体躯を循環し、
君の生命を担う液だったと思うと、

どうしようもなく愛しい。



指から舌を離し、

今度は直に首から血を舐め始めた。



霧野が恐怖で体を震わす。

浮かべている表情はどんな風に歪んでいるのか。



恐怖?

憎悪?

嫌悪?


どれでも良い。全部良い。



傷口が痛むよね。



執拗に傷口を抉られる不快感と、

生理的嫌悪感にきみは、襲われているんだ。



そう思うと、

脈拍が速くなり、体全身を駆け巡る血が熱くなるのを感じる。



今、君に触れて、

君の穢れ無き心に醜い欲望を打ち付け、


恐怖させ、支配しているのは俺だ。


俺だけだ。




今の君は俺のもの。







口を、首から離す。

唇についた血を手の甲で拭い、瞳へ視線を移した。




淡い翡翠色の瞳は深く、宝玉のように煌めいている。


水晶玉のように美しい眼球を頭で夢想し、頬が紅潮する。




今すぐ抉り出したい衝動にかられたが、堪えた。


アレは、君の純真さで美しく輝いているのだ。


抉ってしまっては、輝きが失せてしまう。




どんな鉱石でも、彼の美しい翡翠の瞳には敵わないだろう。


深みのある瞳を見詰めていると、

目眩に苛まれる。




透明感のある瞳に魅せられ、吸い込まれそうになる。



溺れる。溺れる。






縁取るようにびっしりと生えた睫毛は、長く細い。

端麗に並ぶ下睫毛をうっとりと指でなぞる。



君は瞬きすら出来ないらしい。



体を萎縮させたまま、俺を受け入れた。



小刻みに震える睫毛。


見開かれた双眸は俺を見詰め、訴えかける。




どうして?





そんな風に問われても、君のせいだとしか、答えられない。



俺は君が好き。愛してる。




だけど。

君はみんなに優しいから。
寂しくて虚しくて満たされない。



だから、俺のものにしてしまおうと思ったんだ。



それだけ。それだけだよ。








この部屋でずっと一緒に暮らそう。

2人きりで愛を囁き合おう。



愛を育むのに、部外者は要らないでしょ?


君の自由を奪っている手枷は、

俺と愛を確かめ合うときには、

外してあげる。



だから、ね。安心して。

そんなに怯えないで。







愛してるよ。









(愛は籠の柵。)

(独占欲を錠前にして、)





(俺は君を逃がしはしない)

















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