短編。 | ナノ





優しさ
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『足、動かない』











「じゃあ、俺そろそろ、おいとまします」


まって。



帰ろうと、ベッドの傍らの椅子から立ち上がる霧野蘭丸。


それを剣城優一は、彼の手首を掴むことで制止した。



「どうしたんですか優一さん?」



蘭丸の手首は華奢で、優一の手の親指が中指の第一関節の辺りまで重なる。





込み上げてくる衝動を、

優一は、抑える間もなく



「君が、好きなんだ」



という、自分の声を聞いた。







蘭丸の顔色を伺う。



呆けたような、正に茫然とした表情。




そして、

瞬きを二度した後、


彼は、衝撃を受けたかのように双眸を見開き、まるで、引き殺された猫を見たときのような眼差しを、優一へ送った。



優一はそれを受け、言葉を失う。



(その表情、)


(同情だね。)





俺に同情してるでしょ。

蘭丸くん。







何か黒い感情が、優一の心に滲んだ。






優一は蘭丸を凝視する。


当惑に揺れる翡翠色の瞳。
眉尻が不安げに下がっている。まるで、緊張しているみたいにきつく結ばれた唇。



「蘭丸くん」


名前を呼ぶと
微かに、震える肩。


どうしたらいいのか分からず、困惑している。








そんな彼の手首を引き寄せ、指に口付けをした。




「優一さ…っ」


白くいたいけな指に舌を這わせる。





「や、やめてください…」





言葉とは裏腹に、


されるがままの蘭丸に、優一は問い掛ける。






「逃げないの?」


「…っ」


彼の顔が、くしゃりと歪む。


「ねぇ、逃げないの?」



足が不自由な俺から、逃げるなんて簡単なことじゃない。




ねぇ。



嫌なら逃げればいいじゃないか。


手を振り払って、

その足で、走って。





…もしかしてさ、


俺が、足が不自由だからこそ、逃げられない?





可哀想で。





「あ、の…っ」



何か言いたげに、唇を動かす。だけど、言葉になっていない。




あぁ、いいなぁ。

その表情。



君ってすっごく優しいんだね。



「俺に同情してくれてる?」



優一は微笑み、


蘭丸の髪を引っ張った。





「…っ!」




蘭丸は体制を崩し、



優一の方へ倒れる。




体制を建て直そうとする彼を、優一は制止する。



うなじへ手を回し、


彼の顔を引き寄せた。





「…優しいね?蘭丸くんは。」









その優しさに漬け込ませてもらおうか。



























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