狩屋少年
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(…あっれ。)
67点。
比較的丸印が優勢な答案用紙を見詰め、首を傾げる。
数学は俺にとって暗記を必要としない楽な教科であり、定期テストの合計点数に置いて、頼れる得点元だった。
まあ、簡潔に言うと、期待外れ。と言う奴で。
(うわー…)
苛立ちを隠せず、答案を制服のポッケに思いっきり突っ込んだ。
…………………………
俺は負けず嫌いである。
更に言うと、負けたことを引き摺り根に持つ性分だ。
さらに、悪い癖として、胸を蔓延る蟠りにより、ついつい、手や足が出てしまう。
そして、
その被害対象は大抵、
「霧野せんぱーい」
グイ。
ゆらゆら目障りな毛先を、力任せに引っ張った。
「うわっ」
そんな言葉を溢しながら霧野先輩は体勢を崩しかけて、寸での処で持ち直した。
(だせー)
間抜けな声を鼻で笑って、髪に絡めた指を離す。
ゆっくりと、霧野先輩が此方を向いた。
あは。
怒ってやんの。
つり上がった翡翠色の瞳を見て、馬鹿にしたように笑った。
「お前なぁっ…」
いってーんだよバカ!
霧野先輩の剣幕に、舌を出して応えた。
あっかんべー。
八つ当たりなんて子供染みてるなぁ。と、冷静に考えてる自分も勿論いるのだが、いかせん、腹立たしくて仕方無いのだ。
(数学いっつもクラストップだったのにっ…)
あぁ。くそ。
10点問題3問もあったとか想定外!!
背後に霧野の怒号を聞きながら、地団駄を踏むようにして、ドカドカと乱暴に駆け出した。
と、
後ろから髪の毛が引き抜かれるような激痛を受け、呆気なく体が転倒する。
視界に空が飛び込んできて。
「ご、ごめん狩屋やり過ぎたっ!!」
次の瞬間には、地面にぶつかった痛みと、砂利が皮膚に食い込む不快感。
そして、慌てた顔した霧野先輩が視界を覆った。
きらきら、彼の桃色の髪が淡い青の空に透き通って、
(キレー…)
不覚にも、
うっすら感動。
なんだか、気が緩んだ。
と、同時に、我慢していた何かが零れる。
「…っ!!!!!」
霧野先輩の顔がサアッと蒼白する。
「ごめんな狩屋!!」
涙を指で掬われた。
その行為でやっと自分が泣いていると理解して。
素早く起き上がり、霧野先輩を突き飛ばした。
「見んなバカ!!」
一度堰を切った涙を堪えるけとが出来ず、ぼろぼろ、涙が落ちていく。
「狩屋!!ほ、保健室いこう!!痛いんだろ!?」
「うっさい触んな!!痛くねーよ!!」
「じゃあ、なんで泣いて…」
テストで悪い点とったのが悔しくて泣いてるとか言えるかよ!!
ばか!!
……………………………
「…だから、いきなり俺の髪を引っ張ったりしたのか。」
結局、ばれた。
(あまりのしつこさに折れた。)
「どーせ、餓鬼くせーとか思ってるんでしょ」
口を尖らせ、そっぽを向く。手で涙の滲む目を擦った。
あぁ、もう、カッコ悪い。
「67点か…。でも決して悪い点じゃないじゃないか。」
「いつもは、9割超えが普通なんですよ」
先輩と違って!!
「いつも9割超えなのか!?」
目を真ん丸にし、霧野先輩が身を乗り出した。
…なんだよ。
そのきらきらした目。
「狩屋はすごいなぁ!勉強も頑張ってるなんて偉いぞ!!」
にっこり微笑んで、
霧野先輩は俺を撫でる。
全身が凝固して、
呼吸ができなくなった。
まるで衝撃波のように、霧野先輩のその言葉が全身を駆け巡る。
俺さ、怒られたりもされないけど、代わりに、褒められたりとかもされないんだよね。
…この人ってほんとに、
なんでこう…、
俺が欲しいものが分かるわけ?
あ。
やば。
泣きそう。
「か、狩屋!!また、泣いてる!!やっぱり痛かったのか?」
「みないでください!!」
「じゃ、じゃあなんで…」
(…お母さんに見えたとか)
(言えるわけないじゃん!!)
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