短編。 | ナノ





美と愛について。
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『排他的耽美論』










「綺麗なものを愛でたいという気持ちに、好き嫌いとかいう鬱陶しい感情論なんていらないんだよ」



その言葉は、

俺たちの間に愛はいらない。



そういう意味なんだよね。






…………………………









ミストレは紫黒色に染まった目を細め、恍惚に笑んだ。



髪を結うゴムに手をかけ、するりと抜く。野放しになった長髪がさらさら垂れた。


腕をくねらせ、深緑の頭髪を手で掻き上げる。

その色めいた仕草に、不覚にも、釘付けになった。


「君は髪解かないの?」


「邪魔だろ」


「えー?」


呼吸と共に乱れていく髪って美しいと思わない?

解いた方が、綺麗だよ。




そう言いながら、俺の髪を人差し指でくるくる絡め取り、その髪に口付けをする。


大きな瞳が上目遣いに俺を覗き込む。


長い下睫毛。

紫石英の眼球に、自分の狼狽えた顔付きが映っていた。



苦手だ。彼の妙に強い眼光は。




「…勝手に乱せばいいじゃん」


「じゃあ、そうさせてもらおうかな。緑色に桃色って、雅な組み合わせだよね。重なるとね、綺麗なんだよ?」


くすくす。

可憐に笑う彼を、愛しいとは思わない。



彼はただの、都合のいい、捌け口だから。




「お前の変な拘り、よく分かんない」


「どうして?君だって、美醜どちらを好むかと問えば、美しい方だろう?」


現に、君はオレを選んだじゃないか。



ミストレは端麗な顔立ちを歪めて、意地悪そうに笑った。





「オレだって、君を選んだしね。やっぱり、綺麗な方がいいだろう?」




『代用品』


『欲の捌け口』


そもそもさ、その考え方事態が、綺麗じゃないっていうか。






「行為自体そのものが…、綺麗とは言えないじゃん」


幾度と体を重ねてきたけれど、

お前の温もりなんて感じたこと無い。




すると、ミストレの瞳が睥睨するように俺を凝視した。


あ。怒ったかも。



不穏な雰囲気を醸し出すミストレに、何か弁解しようと口を動かしかけた。


が、ミストレの冷視に、言葉が詰まり、黙ってしまう。





「どういう意味?」


「…えっと、そのまんまの意味」


「…君はそういう認識をしていたわけか。」


愛の無い行為ねぇ…。


独り言のように、ミストレは言った。




「だってそうじゃんか」


あは。


誤魔化すように笑った。




「愛の無い行為に、美はないと?」


「…うん」



あーあ。


耽美主義のミストレには、言ってはいけない言葉だったかもしれない。


失言してしまった。



綺麗じゃないだなんて。




ミストレは、目を伏せ考えてるような素振りを見せたあと、小さく呟いた。


「君はオレを愛してないの?」



え?



「君がオレを受け入れてるのは、愛からではなく、自分の欲を満たすためなの?」



え。なに。



そういう、はなし?



それに、怒ってんの?



だって俺たちは『代用品』なんだろ。





「…ふーん」



「お前がさ、俺たちの間にはそういうの要らないって言ったんじゃん。」


愛とか憎とか、鬱陶しいし、


ただ、お互いを都合のいいお人形さんとして見ようよ。


って。



「それは、そうだけど…」

なんか、違う。


表情を翳らすミストレに、違和感を抱く。



まさか。

お前、



「愛がほしいとか…、っいた!!」


思いっきり髪を引っ張られた。


ミストレの顔が間近に迫る。



「…じゃあ、オレは君を愛そう」




は?

え?


いまなんていった?





「醜い行為に身を興じるなんて、オレにはたえられない。」


「はぁ?」


「だから君もオレを愛せ。」




意味、わかんねえ。




「お前、言ってること滅茶苦茶だぞ」


「うるさいよ。ほら、オレを愛してるって言って」


オレをすきになれ。



「…そんなこと言われてもさぁ」







無理だよ。




「仮初めでもいい。オレを好きって言ってよ」


「なにお前、どうした…?」






ほんとに、

どうしたんだよ。




………………………



解説という名の言い訳。


我ながら意味不なミス蘭。


お互いを都合のいい捌け口として付き合い始めたミス蘭。


だけど、

無意識にミストレは蘭丸を好きになりかけてて、

愛がない

って、蘭丸に言われて


なんかショックで支離滅裂なこと言っちゃった。

みたいな感じ。

















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