短編。 | ナノ





雨ぐっじょぶ。
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『幼馴染が美人なんて羨ましい。…え?、あ。お、男なんだ。』












「神童、雨、ふってた…」



「…………。」


思わず絶句した。




約束の時間きっかり5分前。

いつものように呼び鈴が鳴り、扉を開けると、霧野がいた。


うん。

ここまではいいんだよ。


何の支障もない。



ただ、彼はびしょ濡れだったのだ。



え?


雨が降ってきてしまったのだから、仕方がないだろうって?


誤解しないで欲しい。


俺は、

びしょ濡れで来るなんて礼儀知らず!!″

とか、怒っているのではない。




ただ、彼のその庇護欲を煽る濡れ鼠のような状態に、不覚にも、


ときめいてしまっただけである。







「き、きき霧野、大丈夫か?」



あ。やばい動揺してる。


声震えまくり。




急いでタオルを用意して、霧野の頭に被せ、わしゃわしゃと無駄な水分を拭き取った。



「神童ありがとう」



ふわりと微笑む霧野。


か、かわいい…!!



これはなんと表現すればいいのだろうか。





濡れた肌は、いつにも増して白く滑らかに見えるし。
翡翠色の瞳が朧気に霞んでいるように見えて、それがいじらしいし。

唇なんかもうるうるだし。
寒さに紅潮した頬は言うまでもなく愛くるしいし。

滴の滴る桃色の髪は、可憐さと妖艶さを絶妙なバランスで醸し出しているし。


ワイシャツに肌色が透けてて、おまけに身体にぴったり張り付いているもんだから、繊細な曲線を描く華奢なラインが浮き彫りとなってしまっているし。




(一言で言えば、)


(…色っぽい)





…彼はきっと、

無防備な訳ではないのだ。


俺と友達であるという安心と信頼故の警戒心のなさが、彼をそうさせているだけで、別に、誘惑等をしている訳じゃない。


だって同性だし。

同性なんだし。

同性、なんだし。


それに、友人と接するに当たって妙な緊張があっても困るじゃないか。

これが、普通なんだ。


普通じゃないのは、

俺の方。



親友に情欲を抱くなんて、切腹して喉笛貫いて血反吐を吐きながら惨たらしくみっともなく死ねばいいんだ。







「いま、服もってくる。乾くまで家にいていいから。」


「そんな迷惑かけるわけには…」


「大丈夫だよ。いつも霧野にはお世話になってるんだから」


「…ありがとう」


霧野を脱衣場に案内した後。そう言って自室に向かう。



体系的にはそれほど変わらないし、まあ、なんでもいっか。



適当に部屋着を見繕い、脱衣場へ向かった。



そして、自宅の脱衣場の扉を開けることに、躊躇う気持ちは生まれなくて、



何の断りもなく、俺は扉を開けてしまう。




「霧野、じゃあこ」



本日2度目の絶句。



「あ。神童ありがとう」



そう言って笑む霧野は、裸だった。


あ。いや。裸じゃなくて、半裸?


限りなく裸に近い半裸?

いや意味分かんないだろ何言ってんだ神童拓人。


あれだ、あの、裸にタオル巻いてるやつ。


温泉とか行くと、前隠すじゃん。

あれだよ。




だから普通なんだよ神童拓人。


普通なの。

これが普通。



例え彼が逸脱して麗しい容姿を持っていて、

どのような解釈をしても胸の発達が控えめな女性としか思えなくて、

尚且つ俺が震えるほど大好きでもこれが普通なんだよ。



だって、同性だもん。


霧野にとって俺は親友以下でも以上でもない、


恋愛対象外の、幼馴染みだんだから。




同性なんだから。

例え霧野が愛しくても、同性なんだから、



劣情を抱くなんて、あり得ないんだよ神童拓人。




あぁ、もう、

気持ち悪いし、最低。




これじゃあ、


外見につられてやって来るあの俗物達と、一緒じゃないか。



しかも、


俺は幼馴染みという立場を利用して、彼に対して、


邪な気持ちがあるにも関わらず、


無垢な顔して、傍にいる。



一番たちが悪い。



俺が霧野の有害だ。




「…あっ、さき部屋、行ってるな」



これ以上、霧野を穢い目で見たくない。


罪悪感と嫌悪感に苛まれ、なんとか笑顔をつくって脱衣場から一歩出た。


「神童…?顔色、わるいぞ。大丈夫か?」


「大丈夫だよ。」


なんだか吐きそうで、声があまりでなかった。


衣擦れの音にさえ、沸き上がる劣情を、無理矢理飲み込む。


扉へ手をかけた。




すると、数秒の沈黙の後、霧野が、


「…まてよ神童」


まるで囁くような声。


そして、


抱き締められた。




(…っ!!)




発したずの言葉は声にならず、口だけが間抜けにパクパク動く。




たぶん、息も止まって、血液の循環も停滞した。


手に持った衣類が、ぽとんと床へ。




全身が凝固して、

彼を振り払うことはおろか、瞬きすら出来ない。






「…神童、オレ、誘ってんの?わかる?」





耳許で、

霧野の声。




「この季節にワイシャツ一枚で来るわけないじゃん、わざとだよ。」



いつもの凛々しい声じゃなくて、

まるで、猫が餌をねだるときのような甘えた響きを持った声。


甘い響きが鼓膜を擽って、脳へ侵食していく。



「ねぇ神童…」



腕が解かれる。


ぎこちなく後ろを見返ると、


今までに見たことがないような、


寒気がするほど蠱惑的な霧野の笑顔。



白い肌が眩しくて、その、扇情的な絵面に釘付けになる。













「さわって…?」


























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