短編。 | ナノ





霧野蘭丸という人。
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『どうすれば伝わるの』









「具体的にどこに欲情するわけ?」


俺、男じゃん。


そう呟きながら、霧野先輩は失笑した。


ん。

もしかして嘲笑かも。



床に押し倒されながらも、落ち着き払った顔して危機感の無い疑問をぶつけてくる先輩って、本当に、意味分からない。


「…はぁ?」


「いやだってさ、気になる」

気になる、

じゃねーよ。


状況把握できてる?

この人。


恋人でもなんでもない後輩に襲われてんだけど?

しかも同性に。





「先輩が抵抗しないならこのまま犯しますよ」


「いやだからさ、どこに欲情してんの」



…普通こういうこと聞かないと思うんだけど。

自分の貞操の危機に。


毛ほども動揺を見せない彼に、思わず言葉が詰まる。




どうして俺が狼狽えなきゃいけないんだよ。





真下の大きな瞳に凝視され、なんだか気圧されてしまう。


視線を反らし、

平静を取り繕った。


そして、再び先輩を見る。



「ねぇ狩屋、狩屋って同性愛者なのか?」


「…違いますよ」


たぶん。

先輩に会うまでは普通に女子が好きだったし。


「え。じゃあなんで俺のこと襲ってんの」


「そりゃあ、先輩が好きだからです」


「…俺が好きってことは、同性愛者じゃないの?」


「…まあ。そう言われちゃうと、反論できないですが。でも、先輩だけにですよ同性なのにこういう気分になるの」


言葉に表すと陳腐になってしまうけど、


あんたの、

強かで思慮深い人格に触れて、


同性にも関わらず、好きになってしまったんじゃないですか。



俺がもともと同性愛者なんじゃなくて、

俺が同性愛者でもいいかなって、


考えに至ってしまうくらい先輩に惚れ込んじゃったんですよ。


「同性のどこに欲情すんの?」


「だから…、別に同性愛者なわけじゃないんですって。先輩だからです」


「じゃあ俺のどこに欲情すんの?」


いや。


そんなの全部だけど。


全身隈無く隅々まで。


比喩とかじゃなくて。



「…俺ってさぁ、外見、ちょっとアレじゃん。性別にそぐわないじゃん。」


自覚あったんだ。


吃驚。



「だから、同性から告白とかけっこうあったんだよ。勘違いもあったし、元から同性愛者の人もいたし、君なら男でもいいっていう人もいた」


まあ、

先輩は外見は勿論綺麗ですし、さらには中身も中々の善良者というか、


あの日本有数の財閥の御曹司にしてピアノも達者、成績優秀、名門雷門サッカー部のキャプテンを担い、加えて容姿端麗な学校の王子様。


みたいな、

仰々しい肩書きをあっさり抱えちゃってるような人と、長い付き合いをしているだけありますよ。



普通、ああいう完璧な人とは何となく距離おいてしまうのに。


先輩は、きちんと向き合って支えになっているわけで。


それって、凄いことだと思いますよ。



しかも、

先輩だってこんな外見しているわけだから、


2人でいたら、相当目立ってるし。


王子様とお姫様みたいだし。



勘違いした第三者からの、

嫉みとか、妬みとか、

そういう八つ当たりみたいな感情を、ぶつけられたことがないわけないだろうし。


それでも一緒にいる先輩は、


やっぱり強いなぁって、



いいなぁって思う人はたくさんいると思う。


俺含めて。



「分かんないんだよね俺。」

「なにがですか」


「男でもいいっていう人の気持ち」


同性愛者の方を否定しているつもりはないよ。

だけど、君なら男でもいい″って、どういうつもりで言ってんだろうね?


少し語気を強め、先輩は言った。



心なしか、

先輩の顔が、苛立ちに歪んでいる気がする。



怒った。のかな。




「それは、俺が、女みたいな顔してるから?」



女の代用品ってこと?


そう続けた先輩の顔をひっぱ叩きたくなったが、

堪えた。



…あんたは今まで俺みたいな人をそういう言葉で傷付けてきたの?


もしそうなら、俺はあんたに幻滅だ。




「…人それぞれですよ」


「じゃあ、狩屋は?」


「え…?」


「狩屋はどうして男でもいいって思ったの?」



そんなの、

そんなのさぁ、





あんたが好きだからだよ





「俺の顔?外見?立ち振舞い?」


言えよ。

思いっきり軽蔑してやるから。



そう訴えかける先輩の瞳に、

どうしようもない憤りが芽生える。





あぁ、


なんなのこの人。



自分を、なんだと思ってるの。


あんたは霧野蘭丸じゃん。

女とか男とかそういう前に、

霧野蘭丸っていう、かっこいい存在であるわけじゃん。




それに惚れちゃいけないの?


そういう人を認められない?



「…欲の捌け口にしたいんだろ?」


これ以上、

俺が好きな先輩を汚さないでよ。



喋らないで。



先輩は人の好意を、

こういう風に踏みにじる人だったんだ?


幻滅、幻滅だよ。





「お前もあいつらと一緒だ」


うん。

一緒かもね。


きっと先輩に好意をぶつけた人は、



みんな、みんな、

あんたが大好きだったんだよ。


男だから女だから、

そういうの投げ出して、


霧野蘭丸が大好きだったんだよ。








………………………







霧野先輩は、

自分が大嫌いらしい。



まあ、そうなるかもね。


あの完璧超人といたらさ。


自分の、

霧野蘭丸という存在を、

根こそぎ否定しているみたいだ。



自分の素晴らしさを認められないあんたを。

俺は、



好きなの。


どうすればいいの。


















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